第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 会社の経営の基本方針

当社グループは、「MOTION & CONTROL™を通じ、円滑で安全な社会に貢献し、地球環境の保全をめざすとともに、グローバルな活動によって、国を超えた人と人の結びつきを強める」という企業理念のもと、

 ①世界をリードする技術力によって、顧客に積極的提案を行う

 ②社員一人ひとりの個性と可能性を尊重する

 ③柔軟で活力のある企業風土で時代を先取りする

 ④社員は地域に対する使命感をもとに行動する

 ⑤グローバル経営をめざす

という経営姿勢により社会に貢献する企業を目指していきます。

 

(2) 経営環境及び対処すべき課題等

当社グループを取り巻く事業環境は、ウクライナ情勢の緊迫化を契機としたエネルギー価格の高騰などによるインフレ進行、長期化する半導体等部材のサプライチェーン問題、加えて各国中央銀行の金融引き締めに伴う景気後退懸念など、経済の先行きは未だ不透明な状況にあります。また、自動車産業をはじめとする産業全般における電動化・自動化・デジタル化などの技術革新は急激に進み、企業として取り組むべき課題は拡大を続けています。さらには、カーボンニュートラル、人権の尊重、少子高齢化問題への取り組みなど企業の社会的責任の重要性は増し、経営環境は急速に変化しています。

こうした環境下においても、当社グループは企業理念のもと、技術革新の進展や地球環境負荷の低減に対する取り組みを成長の機会と捉え、技術・製品・サービスを通じ、高い品質と信頼で応えていきます。すなわち、トライボロジーとデジタルの融合による価値創出で、持続可能な社会の発展に貢献し、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続ける企業を目指していきます。

その実現に向けて、2022年度から2026年度までの5ヵ年を対象期間とする『中期経営計画2026』に則り、事業基盤の強化を進めていきます。当社のコアバリューである「安全・品質・環境・コンプライアンス」を、経営の意思決定や行動において最優先される共通の価値基準とし、「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」の3つの経営課題に取り組んでいきます。

 

 

3つの経営課題とその取り組み内容は以下のとおりです。

 

1.「収益を伴う成長」として、既存ビジネスを伸ばすとともに新たなビジネス領域を育てることを意味する

 “Bearings & Beyond”のもと、事業環境の変化の中でも、持続的成長が可能な事業基盤の確立を目指します。

・当社グループの強みである軸受・精機製品の競争力を高め、産業機械ビジネスの拡大による事業ポートフォリオの変革と、自動車の電動化へのシフトに対応していきます。

・産業の自動化や環境対応、及び当社の状態監視技術の深化など、新技術の共創を進め、新商品でのビジネスを広げて行きます。

・ステアリング事業は新会社のもと、単独での事業運営の推進と戦略的パートナーとのアライアンスの検討を進めます。

 

2. 「経営資源の強化」として、デジタルの力で経営資源を強化し、事業変革を起こし続ける基盤を作ります。

・品質・技術・モノづくり、及びそれらを支える人材の育成において、デジタル技術を積極的に活用します。

・モノづくりの方針として、「生産の超安定化」を掲げ、飛躍的生産性の向上と、より安全・安心で、環境にやさしい工場を実現し、モノづくりの変革を目指します。

・多様な人材の登用、多様なキャリアの開発・支援を進め、人的資本の価値最大化を目指します。

 

3. 「ESG経営」として、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続ける企業を目指します。   

・省エネへの取組み、新技術の開発、及び再生可能エネルギーの活用により、二酸化炭素の自社からの直接排出(Scope1)とエネルギー使用による排出(Scope2)について、2035年度にカーボンニュートラル達成を目指します。

・エネルギーロスを少なくする低摩擦技術や、風力発電・水素エネルギーなどに使用される環境貢献型の製品・サービスの提供により循環型社会の発展に貢献します。

・働き方改革によって働きやすい環境をつくり、ダイバーシティ&インクルージョンを推進します。

・グループガバナンスの強化と、ステークホルダーとの対話を深めていきます。

 

当社グループは、以上の経営課題に取り組み、『変わる 超える』への挑戦を続け、未来志向の高い目標に向かって、前進を続ける活力のある会社を目指します。企業理念に基づいた企業活動とMOTION & CONTROL™を通じて、社会的課題の解決と社会の持続的発展への貢献を続けていきます。

 

(3) 目標とする経営指標

『中期経営計画2026』(2023年3月期から2027年3月期)で掲げる主な経営指標は以下のとおりです。

 

財務目標(注)

 

事業ポートフォリオの変革

収益を伴う成長

売上高年平均成長率 5%

営業利益率 10%

株主資本コストを上回る

資本効率性の追求

ROE 10%

ROIC 8%

持続的な成長を支える

財務基盤の安定維持

ネットD/Eレシオ 0.4倍以下

 

  (注)『中期経営計画2026』作成時点

 

また、非財務目標として、技術開発の取り組みにおいては新商品売上高比率の向上、環境についてはCO2排出量とCO2排出原単位の削減及び環境貢献型製品の開発に取り組んでいます。また、安全な職場環境づくりに対しては休業度数率の減少、ダイバーシティ&インクルージョンに関しては、従業員及び管理職における多様性(女性、外国人、中途採用比率)の向上などに取り組んでいます。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループは企業理念のもと、各ステークホルダーとの協創による価値創出を通じ、社会課題解決への貢献と企業としての持続的成長の両立を目指しています。そして、『中期経営計画2026』では、トライボロジーとデジタル技術の融合による価値創出で持続可能な社会の発展に貢献し、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続ける企業を目指し、「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」の3つの経営課題に取り組んでいきます。

例えば「経営資源の強化」では人的資本の価値最大化に取り組み、「ESG経営」では2035年にScope1とScope2のCO2排出でカーボンニュートラル達成を目指します。

3つの経営課題と取り組みや非財務目標は、「第2[事業の状況]1[経営方針、経営環境及び対処すべき課題等](2)経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりです。

 

サステナビリティに関する取り組みは、当社グループウェブサイトをご参照ください。

https://www.nsk.com/jp/csr/

 

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。


(1)気候変動

①ガバナンス

当社グループは、機関設計として指名委員会等設置会社を採用しています。取締役会は業務の執行の決定を積極的に委任し、その執行状況を適切に監督するとともに、カーボンニュートラルの取り組みを含む中・長期的な経営課題・方向性等に関するテーマの討議を行っています。

また、2022年度に設置したCEOを委員長とするコアバリュー委員会は、「安全・品質・環境・コンプライアンス」のコアバリューの推進・強化のための方針の議論や気候関連等のリスクの共有をとおして、全社的課題を設定し、それらの解決に向けた提言と活動の進捗のモニタリングを行います。

 

②リスク管理

当社グループは、これまでも気候関連のリスクを重要性の高いリスクとして認識し、事業や部門を横断して対処してきました。さらに2020年度からは、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下「TCFD」)の推奨するシナリオ分析も活用し事業環境の変化と当社の事業への影響を分析するとともに、課題の抽出及び対応策の実施等、取り組みを強化しています。

 

③戦略

気候変動が当社グループのバリューチェーンに将来的に与える影響及び気候変動対策の有効性の検証を目的に、最長2050年までの期間を想定し、1.5℃~2℃シナリオ、4℃シナリオの2つのシナリオ分析を実施しました。当社グループは持続可能な社会の構築のため、気温上昇を1.5℃~2℃以下に抑制できる社会の実現に貢献することを基本戦略とします。CO2排出規制に関連した移行リスクへの対応に取り組み、製品ライフサイクル全体での脱炭素化という社会的ニーズを当社グループの事業領域であるMOTION & CONTROL™の進化の機会と捉え、事業活動全体で気候変動対策を推進します。一方、気候変動に起因する自然災害に対しては、シナリオ分析結果を踏まえて対策を推進します。

具体的には、生産工程における技術革新をはじめ、エネルギー使用量の可視化や再生可能エネルギーの導入拡大などの対策を強化し、事業活動からのCO2排出量の最少化に取り組んでいます。また、低摩擦損失の製品や、風力発電用軸受などの再生可能エネルギー普及に対応した製品の開発・設計・生産・販売を通じて、お客様の使用段階におけるCO2排出削減貢献量の最大化を図ります。

 

 

④指標及び目標

当社グループは、事業活動、すなわち「つくる」時のCO2排出量の削減と、顧客における製品・サービスの使用段階、すなわち「つかう」時のCO2排出削減貢献量の拡大を両輪として、長期的な目標を設定し取り組みを進めています。特に事業活動からのCO2排出量の削減については、『中期経営計画2026』では、Scope1とScope2のCO2排出について、2035年度に実質ゼロを目指すカーボンニュートラルの目標を設定しました。

 

<目標>

2026年度 Scope1+2 CO2排出量削減 △50%(対2017年度)

2035年度 Scope1+2 カーボンニュートラル達成

 


 

なお、TCFD提言に基づく情報開示については、当社グループウェブサイトをご参照ください。

https://www.nsk.com/jp/csr/TCFD/

 

 

(2)人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針

①戦略

企業理念を実現し、社会課題解決への貢献とNSKグループの持続的成長を両立していくためには、多様な人材の活躍が不可欠です。

当社グループは、経営姿勢で「社員一人ひとりの個性と可能性を尊重する」(注1)ことを明確にするとともに、従業員一人ひとりが企業の貴重な財産であると考えています。この考え方に基づき、「多様な人材の活用」「成長に資する機会と場の提供」「いきいきと働き続ける職場づくり」という3つの柱で、公平で個を活かす活力ある職場づくりを推進しています。

現在、2022年度から2026年度までの5ヵ年を期間とする『中期経営計画2026』に取り組んでいます。技術や社会が変化していく中、活動の視点を広げ、高い目標の達成のために『変わる 超える』への挑戦を続け、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続ける企業を目指します。当社を取り巻く事業環境が大きく変化する中、多様な人材の知見や経験、視点を集め、互いに刺激し合うことで組織を活性化し、一人ひとりの『変わる 超える』につなげていくことが大切です。それは、従業員がやりがいを感じながら働き続けられること、チームで成果を作り出せることにもつながります。経営戦略と連動した人事戦略のもと、次の3つの目指す姿を掲げ、人的資本の価値最大化、すなわち、多様な人材一人ひとりが個性を最大限に発揮し、さらには可能性を広げ成長し続けられることを目指します。

 

②指標と目標

多様な人材が集まる会社

 

2023年3月期

実績

2027年3月期

目標

従業員における多様性比率(女性、キャリア採用、外国籍社員) (注2)

13%

15%

 

 

多様な人材がスキル/能力を伸ばし成長できる会社

 

2023年3月期

実績

2027年3月期

目標

グローバルポストにおける現地化比率 (注3)

73%

70%以上を維持

 

 

安全で健全な職場

 

2023年3月期

実績

2027年3月期

目標

休業度数率 (注4)

0.38

0.10

健康経営優良法人(ホワイト500)認定 (注2)

認定

認定継続

 

(注) 1 社員とは、NSKグループで働くすべての人を指します。

   2 指標の特性等の理由により、提出会社ベースで算出しています。

    3 当社は、海外事業の拡大に伴い、各地域で現地主体の機動的な事業運営を可能とする体制の構築を目指し、マネジメント層の現地化を図ってきました。地域統括における事業運営上の重要なポストをグローバルポストと定め、その多くに現地の社員が就き、現地主導で事業拡大を展開しています。

           グローバルに活躍するマネジメント人材の育成を目的に2011年よりグローバル経営大学を実施しています。

   4 休業度数率=休業災害発生件数÷延べ実労働時間×1,000,000

      休業1日以上の労働災害を休業災害と定義しています。

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは次のとおりです。

なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2023年6月23日)現在において判断したものです。

 

当社は、「リスク管理規則」に定めたリスク管理体制に基づき、技術の変化、地域情勢の変化、自然災害・感染症の発生をはじめとするリスクを網羅的に把握し、定期的、或いは即時に報告がなされる体制を整備し、リスクを回避・軽減するための措置を講じています。

また、当社経営監査部は、各拠点や地域の内部監査部門と連携し、重要なリスクを識別・評価し、各拠点からのリスク報告や実地監査等によりリスク管理状況のモニタリングを行い、その結果を監査委員会に報告しています。

 

 


 

 


 

感染症拡大の影響に関するリスク

ここ数年間に渡り新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は事業運営に対し大きなリスクとなってきました。中国でのゼロコロナ政策に伴う厳格な行動制限により、自動車生産台数の減少や産業機械セクターにおける需要低迷など製品の売上高の減少につながる具体的な影響が生じました。

その間、新型コロナウイルス感染拡大の対策として、当社グループでは、顧客、取引先及び社員の安全・安心を第一に考え、感染防止策の徹底と対応手順の整備をするとともに、テレワークの活用、ウェブ会議の利用促進等の対策を通じて、ポストコロナに向けた働き方改革を推進してきました。また、事業継続に向けたサプライチェーンのリスクを最小化するとともに、事業の競争力・収益力の再構築を通じた企業体質の強化を図ってきました。2023年に入り新型コロナウイルス感染拡大は収束傾向にありますが、これまでに得られた知見を将来の新たな感染症に伴うリスクにも応用していきます。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2023年6月23日)現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、連結財務諸表規則第93条の規定によりIFRSに準拠して作成しています。連結財務諸表の作成にあたって、決算日における資産・負債の報告金額及び偶発資産・負債の開示、並びに報告期間における収益・費用の報告金額に影響を与えるような見積り・予測を必要とします。結果として、このような見積りと実績が異なる場合があります。

なお、連結財務諸表作成にあたっての重要な会計方針及び見積り等については、「第5[経理の状況] 1[連結財務諸表等] (1) [連結財務諸表] [連結財務諸表注記] 2.作成の基礎 (6) 見積り及び判断の利用、3.重要な会計方針の要約」に記載のとおりです。

 

(2) 財政状態及び経営成績の状況

 

①事業全体の概況

当社グループは、“『変わる 超える』で新しい姿の1兆円企業へ”を目指す姿として、2022年度から2026年度までの5ヵ年を『中期経営計画2026』と位置づけ、様々な取り組みを推進しています。「安全・品質・環境・コンプライアンス」の当社コアバリューを、経営の意思決定や行動において最優先される共通の価値基準とし「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」の3つの経営課題に取り組んでいます。

当連結会計年度の世界経済を概観すると、景気は一部の地域において弱さがみられるものの、緩やかな持ち直しが続いています。一方で、ウクライナ情勢の緊迫化を契機としたエネルギー価格の高騰などによるインフレ進行、長期化する半導体等部材のサプライチェーン問題、加えて各国中央銀行の金融引き締めに伴う景気後退懸念など、経済の先行きは未だ不透明な状況にあります。

地域別にみると、日本は海外経済の減速に伴う輸出環境の悪化や消費者心理を冷やす物価高など持ち直しの動きに足踏みがみられました。米国では長引くインフレや金融引き締めによる下押し圧力が強まるなど景気は減速しました。欧州はインフレの高止まりや国際的な金融システム不安が景況感の悪化につながり停滞しました。中国では第1四半期に新型コロナウイルス感染封じ込めを狙うゼロコロナ政策で経済活動が滞り、規制解除後に製造業の設備投資は伸び悩むなど持ち直しの動きに弱さがみられました。

このような経済環境において当社グループの業績は材料・エネルギー・物流のインフレが一段と進行した影響を受けたものの、為替が円安に推移したことに加え、インフレ影響に対して売価転嫁を推し進めた結果、当連結会計年度の売上高は9,380億98百万円と前期に比べて8.4%の増収となりました。営業利益は329億36百万円(前期比+11.9%)、税引前利益は319億26百万円(前期比+8.2%)、親会社の所有者に帰属する当期利益は184億12百万円(前期比+11.0%)となりました。

 

②セグメントごとの業績
(産業機械事業)

当期前半は半導体市場と電動化及び自動化関連を中心とした設備投資が堅調に推移しました。足元では先行き不透明感を受けて需要が低迷したものの、売価転嫁の推進と為替影響もあり、当連結累計期間は対前期比で増収となりました。

地域別では、日本及び米州はアフターマーケットや半導体製造装置向けを中心に需要が増加しました。欧州ではアフターマーケットや工作機械向けの販売が増加し増収となりました。中国はゼロコロナ政策に伴う厳格な活動規制により生産活動が停滞した影響を受けたものの、工作機械向けなどの増加や為替影響により増収となりました。

この結果、産業機械事業の売上高は3,851億3百万円(前期比+9.3%)、営業利益は355億41百万円(前期比+17.1%)となりました。

 

当事業では、成長が期待できる電動化、自動化、デジタル化、環境市場での需要増加を取り込むため、供給力の強化と技術サービス体制の強化を進めています。さらに、状態監視システムやアクチュエータなど新たな高付加価値商品の開発と市場投入も推進することで、産業機械事業のビジネス拡大を目指していきます。

 

(自動車事業)

半導体不足や部品供給停滞で減産が拡大した前期からの回復が想定より遅れたものの、売価転嫁の推進と為替影響もあり、当連結累計期間は対前期比で増収となりました。

地域別では、日本は当期前半に中国からの部品調達が滞るなど自動車の生産調整が続いた影響を受けて減収となりました。米州及び欧州では前期に半導体等部材の供給不足による生産制約の影響を受けて落ち込んだ反動により増収となりました。中国はゼロコロナ政策に伴う厳格な活動規制により生産が停滞した影響や規制解除後の販売が伸び悩み減収となりました。

この結果、自動車事業の売上高は5,207億11百万円(前期比+7.9%)、営業損失は39億51百万円(前期は137億62百万円の損失)となりました。

当事業では、自動車の電動化に対し、低トルク・高速回転・軽量化といった当社グループの技術力を活かすことで競争力を強化し、さらには電動油圧ブレーキシステム用ボールねじなど将来に向けた新商品の拡大を図ることで事業の成長を目指していきます。また、ステアリング事業は新会社のもと、収益性改善に向けた更なる構造改革の推進と戦略的パートナーとのアライアンスの検討を進めます。

 

③財政状態の分析

当連結会計年度において、資産合計は前連結会計年度末に比べて12億94百万円減少した1兆2,332億56百万円となり、負債合計は14億40百万円増加した5,985億32百万円となりました。

資本合計は、親会社の所有者に帰属する当期利益があったものの、剰余金の配当による減少、その他の資本の構成要素の減少等により、前連結会計年度末に比べて27億35百万円減少した6,347億24百万円となりました。

 

④キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べて226億4百万円増加した1,601億9百万円となりました。

 

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりです。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動により得られたキャッシュ・フローは、税引前利益319億26百万円、減価償却費及び償却費583億76百万円、法人所得税の支払額204億49百万円に加えて運転資本等の加減算を行った結果、641億63百万円の収入となりました(前連結会計年度は227億33百万円の収入)

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動に使用されたキャッシュ・フローは、保有株式の縮減を進めたことに伴うその他の金融資産の売却による収入33億48百万円、有形固定資産の取得による支出442億92百万円、IoT関連及びDX推進に伴う無形資産の取得による支出74億57百万円等により、487億78百万円の支出となりました(前連結会計年度は199億73百万円の支出)

 

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動により得られたキャッシュ・フローは、社債の発行による収入430億円、社債の償還による支出100億円、配当金の支払額153億86百万円、短期借入金の純減額80億65百万円等により、44億17百万円の収入となりました(前連結会計年度は482億24百万円の支出)

 

⑤目標とする経営指標の達成状況等

当連結会計年度は、『中期経営計画2026』(2023年3月期から2027年3月期)の初年度であり、当計画に基づき「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」の3つの経営課題に取り組んできました。当社グループを取り巻く環境は、先行き不透明感を受けて需要が低迷しましたが、インフレ影響に対する売価転嫁が進んだことに加えて為替影響もあり、産業機械事業及び自動車事業は前期に比べて増収となりました。

この結果、当連結会計年度における当社が経営上の目標として掲げる指標と実績は、次のとおりです。

 

 

経営指標

中期経営計画2026

目標

2022年3月期

実績

2023年3月期

実績

①売上高年平均成長率

5%

8,652億円

9,381億円/

対前期比+8.4%

②営業利益率

10%

3.4%

3.5%

③ROE

10%

2.8%

3.0%

④ROIC

8%

1.9%

2.1%

⑤ネットD/Eレシオ

0.4倍以下

0.27倍

0.29倍

 

 

2024年3月期の事業環境につきましては、世界的な金融引き締めに伴う影響や物価上昇等による下振れリスクはあるものの、グローバルで緩やかな持ち直しが続くことを想定しています。このような環境下においても、当社グループは企業理念のもと、トライボロジーとデジタルの融合による価値創出で、持続可能な社会の発展に貢献し、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続ける企業を目指していきます。

 

(3) 資本の財源及び資金の流動性

①財務戦略の基本方針

『中期経営計画2026』では、持続可能な社会への貢献と不断の企業価値の向上を目指すために、安定した財務体質のもと、収益を伴う成長を遂げてキャッシュを創出することにより、当社の持続的成長のために必要な投資と株主の皆様への安定的な利益還元に資金配分を継続することを、財務戦略の基本方針としています。

 


 

 (a) 財務安定性の維持

当社グループの持続的な成長を支え、景気変動の影響にも耐え得るには、「財務安定性の維持」が前提となります。自己資本比率、ネットD/Eレシオ、手元流動性など、当社グループの財務健全性を示す指標は健全性を保って推移しています。『中期経営計画2026』では、ネットD/Eレシオの目標を0.4倍以下とすることで、安定的な財務基盤を確保しつつ機動的かつ効果的な有利子負債の活用も図っていきます

 

 (b) 収益を伴う成長

キャッシュを創出して、持続的な成長を達成するための設備投資や研究開発投資、さらにはESG経営に必要な人的資本、知的資本、IoT関連・DX推進への投資を実施し、株主の皆様に安定的な利益還元を継続するためには「収益を伴う成長」を持続的に達成することが必要です

株主・投資家の皆様が期待する資本コストを上回る収益率をあげることは、株式上場会社の使命と言えます。当社グループは、過去の株価動向と事業特性、及び株式市場の現況から推計した当社の株主資本コスト(概ね8%~9%)を上回る「ROE 10%」を『中期経営計画2026』の経営目標とします。また、経営目標の1つに「ROIC 8%」を掲げ、低収益資産の縮減を進め、資産効率の向上を図っていきます。これらの目標を中期的に達成し続けることが、株主価値の向上につながると考えています

 

 (c) 安定的な利益還元

当社グループは株主の皆様に対する「安定的な利益還元」を重要な経営方針の一つとしています。『中期経営計画2026』においては、配当性向30%~50%を目標に掲げて、株主の皆様へ安定的・継続的な配当を実施する方針です。また、機動的な資本政策の手法として、自己株式の取得も選択肢の一つと認識しています。自己株式の取得は、キャッシュ・ポジションや株式市場の動向等を勘案して適切かつ機動的に実施したいと考えており、配当と自己株式取得を合わせた総還元性向は、『中期経営計画2026』の期間累計で50%とすることを目安としています。なお、これらの実行にあたっては、財務状況等を勘案して適切に決定していきます。

 

 


 

 

②財務状況

当連結会計年度の財政状態は次のとおりです

 

財務戦略の基本方針

経営指標

中期経営計画2026
目標

2023年3月期
実績

評価・コメント

 

財務安定性の維持

ネットD/Eレシオ

0.4倍以下

0.29倍

健全な財務体質を維持

収益を伴う成長

ROE

10%

3.0%

ROE 10%ROIC 8%の達成にこだわった運営を継続

ROIC

8%

2.1%

安定的な利益還元

配当性向

30%~50%

83.6%

配当金 30円/株
安定的な利益還元を継続

総還元性向

50%

83.6%

 

 

財務活動の振り返り

当連結会計年度は、材料・エネルギー・物流のインフレが一段と進行した影響を受けたものの、為替が円安となったことに加えて、インフレに対する売価転嫁を推し進めたことにより、売上高、利益が前連結会計年度に比べて増加しました。その結果、営業活動によるキャッシュ・フロー、フリー・キャッシュ・フロー共に大きく増加し、当連結会計年度のフリー・キャッシュ・フローは153億84百万円の収入となりました(前連結会計年度は27億59百万円の収入)。

財務活動では、各国中央銀行の金融引き締めに伴う景気後退懸念が存在することから、今後の資金需要を見越して低金利かつ安定的な資金を確保する目的で社債を2回発行し、合計430億円を調達しました。また、緊急時の手元流動性確保を目的としたコミットメントライン契約金額は700億円有していますが、コミットメントライン契約による借入残高はありません

当社グループは、経営資源を有効活用するため資産効率の向上にも取り組んでいます。当連結会計年度においては、政策保有株式の縮減を進めたことに伴うその他の金融資産の売却により33億48百万円の収入がありました。

利益還元については、増収増益となったことや今後の事業環境等を総合的に勘案した結果、当連結会計年度の1株当たり配当金は、前連結会計年度の25円から5円増配した30円としました。配当性向と総還元性向は共に83.6%となり、『中期経営計画2026』の目標である50%を上回っています
 

④資金調達の方針

当社グループは現在、自己資金及び金融機関の借入れ等により資金調達を行っています。運転資金について借入れによる資金調達を行う場合、期限が一年以内の短期借入金で各連結会社がその現地通貨で調達することが一般的で、生産設備などの長期資金は、主として長期借入金及び社債で調達しています
 本報告書提出時点において、格付投資情報センターから「A」、日本格付研究所から「A+」の格付を取得しており、外部からの資金調達に関しては問題なく実施可能と認識しています。当社グループは、その健全な財務状況、営業活動によりキャッシュ・フローを生み出す能力、金融機関のコミットメントライン契約700億円や、コマーシャルペーパー発行枠500億円などにより必要資金の確保と緊急時の流動性を確保しています

 

 

(4) 生産、受注及び販売の実績

当社グループの販売・生産品目は極めて広範囲かつ多種多様であり、また見込み生産を行う製品もあるため、生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示していません。このため、販売及び生産の状況については、「(2)財政状態及び経営成績の状況」に関連づけて記載しています。

 

(5) 経営成績に重要な影響を与える要因

当社グループの事業展開、経営成績及び財務状況等に重要な影響を与えるリスク要因については、「3[事業等のリスク]」に記載のとおりです。

 

5 【経営上の重要な契約等】

(ステアリング事業の「合弁契約書」の締結について)

詳細は、「第5[経理の状況]1[連結財務諸表等][連結財務諸表注記]31. 後発事象 (2) ステアリング事業の「合弁契約書」の締結について」をご参照ください。

 

 

6 【研究開発活動】

(1) 基本方針

当社グループは、企業理念の中で掲げている「円滑で安全な社会に貢献し、地球環境の保全をめざす」を実現するため、社会の変化やお客様の新たなニーズを的確にとらえ、4つのコアテクノロジー(トライボロジー(摩擦・潤滑)技術、材料技術、解析技術、メカトロ技術)と生産技術を駆使した製品開発を進めています。これらの開発活動を通して、高機能・新機能製品をタイムリーに市場へ供給することにより、より豊かな社会の実現と省エネルギーやCO2排出量削減など地球環境保全を図り、持続可能な社会の実現に貢献します。

自動車産業をはじめとする産業全般における電動化・自動化・デジタル化などの技術革新は急激に進み、企業として取り組むべき課題は拡大を続けています。さらには、カーボンニュートラル、人権の尊重、少子高齢化問題への取り組みなど企業の社会的責任の重要性は増し、経営環境は急速に変化しています。こうした環境下においても、当社グループは企業理念のもと、技術革新の進展や地球環境負荷の低減に対する取り組みを成長の機会と捉え、技術・製品・サービスを通じ、高い品質と信頼で応えていきます。すなわち、トライボロジーとデジタルの融合による価値創出で、持続可能な社会の発展に貢献し、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続ける企業を目指していきます。

特に研究開発では、『中期経営計画2026』において“Bearings & Beyond”を掲げ、既存製品の商品力強化と、新商品・新事業の拡大に取り組んでいます。

 

(2) 研究開発の状況

コアテクノロジー

当社コアテクノロジーの一つであるトライボロジー技術においては、「転動体強化による転がり軸受の高機能化技術」がトライボロジーに関する実用技術として評価され、「2021年度日本トライボロジー学会技術賞」を受賞しました。さらに、オープンイノベーションによる技術革新を進めるため、当分野で権威ある日本国内の大学と研究拠点の設置に向けた協定を締結しました。今後、両者の強みを掛け合わせて革新的な技術開発を行う体制・研究環境を整えます。加えて、高度な基礎研究を推進できる人材の育成にも取り組んでいきます。

また、材料技術においては、「Micro-UT法を用いた高精度寿命予測技術」を世界で初めて確立しました。これは、超音波探傷による非破壊検査法の一種であるMicro-UT法を、鋼材中の非金属介在物の大きさや量の測定に実用化し、併せて、リアルデジタルツイン(注)や大学との共同研究を通じて、軸受の寿命を左右する“はくり(剥離)”の発生メカニズムを解明したものです。これにより当社軸受が有する長寿命性能を活かす機械設計が可能となり、機械のメンテナンス頻度の低減や軸受サイズダウンによる機械の小型化などを通し、省資源・省エネルギー化、及びカーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。

 

(注)リアルな現象を再現して詳細に把握し、そのカラクリを推理してデジタル上にモデル化することにより、リアルとデジタルの両面から目に見えない本質を理解し、エンジニアの創造性を高め、既成概念を打ち破るようなソリューションを生み出すことを目指す当社独自の取り組み。

 

事業別の技術開発の状況は以下のとおりです。

 

産業機械事業

電動化・自動化によるモノづくりの生産性向上の実現、状態監視や予知保全にとどまらず補修や再利用までを組み合わせた循環型社会の実現、カーボンニュートラルの実現などが求められる中、当社グループは、これらのニーズに貢献する製品やサービスを開発しています。

モノづくりの生産性向上に関しては、「次世代高精度工作機械用ボールねじ」を開発し、加工の高精度化や金型加工面の高品位化によって、加工面の磨き作業の短縮や廃止に貢献します。また、マシニングセンタなどにおけるチタンや複合材料などの難削材への対応のために、高負荷容量・超高速アンギュラ玉軸受「ロバストダイナTM シリーズ Jタイプ」を開発しました。加工時間の短縮や、メンテナンスフリー化などによる長期安定稼働に貢献します。さらに、高度な自動化など未来のモノづくりに向けて、ボールねじ送り系の状態安定化機構「NSK Feed Drive AdjusterTM」を開発しました。発熱など環境変化の影響を受けにくくする独自の機構を持つことで、一貫した加工の精度と品質が得られ、人の経験にもとづいた加工条件の調整などを排除することを可能にします。

状態監視や予知保全に関しては、工作機械業界や鉄道業界へ「ワイヤレス振動診断器」の導入を開始しています。当社独自の診断アルゴリズムを使った設備状態の監視サービスにより、工作機械業界での予知保全の実現に向けた新しい価値の提供や、鉄道車両運行の安全・安心に貢献します。さらに、軸受メーカーの知見を活かした軸受の修復・再利用サービスと組み合わせることで、循環型社会の実現に貢献していきます。

カーボンニュートラルの実現に関しては、高速マシニングセンタの主軸に用いられる精密軸受を対象に、耐焼付き性向上グリース「ロバストガードTM」を開発しました。これにより圧縮エア使用のために多くの電力を必要としたオイルエア潤滑に代わり、圧縮エアを必要としないグリース潤滑を可能とし、工作機械の消費電力削減に貢献します。また、射出成形機やプレス機などの駆動方式が、油圧式からモーターとボールねじを使用した電動式へと切替わりつつあります。ボールねじの需要増加が見込まれる中、当社ではボールねじの内部部品である保持ピースに世界で初めて、環境に優しいバイオマスプラスチックを適用した「バイオマスプラスチック保持ピース NSK S1TM」を開発しました。

上記に加えて新事業への挑戦として、医療分野では、昨年に続き神奈川県の「令和4年度新型コロナウイルス感染症対策ロボット実装事業」に参加し、搬送アシストロボットで実際に患者を搬送する導入実証を行いました。現場の声を活かして開発を進め、人とロボットが協働する社会の早期実現に貢献します。また、世界的に注目が集まる再生医療領域に対し、当社のメカトロ技術・精密位置決め技術などを活かし、トップランナー企業と協創することで、再生医療の実用化・高度化に貢献していきます。

今後一層高度化する産業機械市場のニーズに応え、『変わる 超える』の新商品を提案し続けます。

 

自動車事業

電動化や自動化が進展する中、当社グループは、「走る」「曲がる」「止まる」に関する自動車の技術革新に対応し、省エネルギー化、安全性、快適性を実現する製品・技術の開発に全方位で取り組んでいます。

「走る」に関しては、EVをはじめとする電動車普及に伴い、軸受内部に発生する放電によって軸受性能が低下する「電食」が課題の一つになっています。モーターの高出力化や駆動電圧の高電圧化により、電食発生リスクが高まることに対し「耐電食ソリューション」を拡充しました。電気を通さない技術として、一般的な対策であるセラミック玉軸受に加え、絶縁皮膜軸受や樹脂モールド軸受をラインナップに加えました。一方、軸受以外の経路に電気を通す技術として、冷却油潤滑環境下でも使用可能な導電ブラシを開発しました。また、新開発の保持器、及び耐焼付き性に優れるグリースを採用した超高速回転玉軸受を「人とくるまのテクノロジー展2022」に出展しました。耐電食ソリューションの拡充と、超高速回転化への対応により、駆動モーターの高出力化や小型化による電動車の航続距離の延伸、信頼性向上に貢献していきます。

さらに、当社の要素技術を高めるために、当社製品が使われるユニット全体を視野に入れて研究開発を進めています。「セレクタブルワンウェイクラッチ」や「電動シフトアクチュエータ」など当社独自の機構に、世界最高水準の高速回転軸受を組み合わせることで、トランスミッション構造の簡素化や滑らかな変速制御の実現へ貢献します。

「曲がる」に関しては、「高出力シングルピニオン電動パワーステアリング」のさらなる改良を進め、より多くの車種に対応し省エネルギーに貢献します。さらに、ステアバイワイヤシステムにおける「操舵反力装置」や「タイヤ転舵装置」で、自動運転や運転支援に貢献していきます。これらも「人とくるまのテクノロジー展2022」に出展しました。

「止まる」に関しては、「電動ブレーキアクチュエータ用循環溝一体ボールねじ」の改良・ラインナップ拡大を進めています。軸受とナットを一体化し、さらにボールの循環経路をナット内径面に冷間鍛造で直接成形することで、小型・軽量化と高い信頼性を実現し、自動運転や法規制に伴う衝突被害軽減ブレーキの採用拡大に貢献しています。

この他、軸受の摩擦低減、軽量化、長寿命化などのコア技術を通して、持続可能なモビリティ社会の実現に貢献していきます。

 

当連結会計年度の研究開発費はグループ全体で19,839百万円であり、その内訳は、産業機械事業6,934百万円、自動車事業11,502百万円、その他1,402百万円です。