第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。これらの将来予測には、不確定な変動要素が含まれており、実際の成果や業績などは、記載の見通しとは異なる可能性があります。

 

(1) グループ経営理念(ミッション、創業の精神)

 ワコールグループは、純粋持株会社である当社のもと、日本、米国、欧州、中国、東南アジアを中心に、インナーウェア事業などを展開し、従前より「人々の美しさに貢献することで、広く社会に寄与する」ことを目指して活動を続けてきました。そして、2022年には、「世界中のあらゆる人々の豊かな生活に貢献する」こと、「画一的な外見美ではなく、内面も含めた自分らしさの実現をお手伝いする」こと、「環境や人権などさまざまな社会課題の解決に努める」ことを目指し、現代社会において私たちが果たすべき社会的使命「ミッション」を定義しました。この「ミッション」ならびに、70年を超える歴史の中で受け継いできた「創業の精神」をよりどころとして、各事業会社が複雑化・多様化する社会課題への取り組みを将来の「成長機会」として捉え、事業を通じて「社会課題の解決」と「持続的成長」の両立を目指す「サステナビリティ経営」を推進することで、企業価値の向上に努めていきます。

 また、私たちの事業活動は、一人ひとりのお客様の声に耳を傾け、謙虚に自らを変革し、人と人とが互いに信頼し合う「相互信頼」を積み重ねることで成り立っております。企業経営の透明性を高めることに継続して取り組み、公正性、独立性を確保することを通じて、「株主」「顧客」「従業員」「取引先」「地域社会」などすべてのステークホルダーとの「相互信頼」の関係を構築することで、社会になくてはならない存在を目指していきます。

 

ミッション

 

ひとりひとりが 自分らしく美しく いられるように

世の中が 自信と思いやりに あふれるように

からだに こころに

いちばん近いところで 寄り添い続けます

 

からだのここちよさ、こころの美しさ。それはまるで引力のように、自分と社会とを結びつけてくれる。

ありたい自分を知り、一歩ずつ近づくこと。そこで生まれた自信は、多様な人々を受け入れる優しさを育む。

その優しさは、やがて社会や地球へも広がり、思いやりあふれる豊かな未来へとつながっていく。

からだに こころに いちばん近いところで、一人ひとりの輝きに寄り添い続けてきたワコールだから。

変化に挑み、成長を続けることで、世界を美しくする力になれる。私たちは、そう信じています。

 

グローバル・コーポレートメッセージ

Comfortable inside. Confident outside.

 

※「グローバル・コーポレートメッセージ」は、ワコールグループ共通のコミュニケーションメッセージです。

詳しくは、当社企業情報サイトの「ワコールグループについて」(https://www.wacoalholdings.jp/group/)をご覧ください。

 

創業の精神

 

目標

世の女性に美しくなって貰う事によって

広く社会に寄与する事こそ

わが社の理想であり目標であります

 

社是

わが社は 相互信頼を基調とした

格調の高い社風を確立し

一丸となって 世界のワコールを目指し

不断の前進を続けよう

 

経営の基本方針

1. 愛される商品を作ります

2. 時代の要求する新製品を開発します

3. 大いなる将来を考え正々堂々と営業します

4. より良きワコールはより良き社員によって造られます

5. 失敗を恐れず成功を自惚れません

 

(2) 中長期的な会社の成長戦略と目標とする経営指標

①中長期経営戦略フレーム 「VISION 2030」

 当社グループは、経営理念の実践に向けて、自社が抱える事業課題やお客様の価値観、社会・環境の変化を見据えつつ、長期的なゴールからのバックキャスティングにより、2030年に向けたグループの将来ビジョンを示す「VISION 2030」を策定いたしました。「VISION 2030」では、「高い感性と品質で、ひとりひとりのからだとこころに、美しさと豊かさを提供し、『世界のワコールグループ』として進化・成長する」ことを中長期的に目指す姿として掲げており、以下の取り組み項目を通じて、持続的な成長と企業価値の向上を実現させてまいります。

 

目指す姿:高い感性と品質で、ひとりひとりのからだとこころに、美しさと豊かさを提供し、『世界のワコールグループ』として進化・成長する

基本方針:革新的な視点で新たな価値を生み、持続的成長を実現する

事業領域:「美」「快適」「健康」領域を、「高い感性と品質」で支えられた新たな商品・サービスで深耕・拡大していく

 

重点戦略:

重点戦略

マテリアリティ(重要課題)

サステナビリティ

経営の推進

国内の収益性向上と事業領域拡大

国内における着実な成長と、健康領域での新規事業創出

・CX戦略の推進を通じた国内市場シェアの回復

・「美・快適・健康」分野における事業領域の拡大

海外事業の拡大と高収益構造への変革

既存進出エリアの拡大維持と、欧州やインド市場での成長

・デジタルマーケティングの強化による新規顧客の獲得

・CRM強化による既存顧客のロイヤル化

・新規市場におけるブランド投資の強化

グループ経営力の強化

グループガバナンスの強化、多様性のある人材育成と活用

国内外の技術・生産・R&D拠点の整備

・品質基準の再定義、縫製工場のスマートファクトリー化、生産・輸送効率の追求

資本効率の高い経営への転換

資本コストを上回るROEの継続的な創出

ステークホルダーへの価値配分の最適化

・ROE10%、資本構成の最適化への取り組み

 

主要指標(2031年3月期):

売上収益

2,700億円

(うち、海外事業売上比率40%)

(参考)非連結合弁会社含むグループ売上高

3,400億円

事業利益(事業利益率)

270億円(10%)

営業利益(営業利益率)

270億円(10%)

ROE

10%

 

 

役員・従業員の行動指針(アクション):

「誰かの幸せを想おう」

顧客、取引先、ともに働く社員など、周囲の人の幸せを考えられているだろうか

「好奇心を持って、五感を使い観察しよう」

最近、新たな発見や気づきはあっただろうか

「なぜ?何のために?を考えよう」

真意や根本原因を理解できているだろうか

「異なる意見を尊重しよう」

謙虚に人の意見に耳を傾け、忖度抜きで、建設的に議論をしているだろうか

「未来志向で判断しよう」

目先の結果だけではなく、豊かな未来の実現のために行動しているだろうか

「まずやってみよう」

リスクを恐れて立ち止まっていないだろうか 挑戦する人を応援しているだろうか

「仲間と力を合わせよう」

大きな成果を生むために、仲間と切磋琢磨し、共創できているだろうか

「誠実に、責任を持ち行動しよう」

相手に感謝を伝えているだろうか 人のせいにしていないだろうか

 

 また、「VISION 2030」の策定にあたり、『世界のワコールグループ』の定義を以下のように、更新しております。

 

『世界のワコールグループ』の定義

・グループの商品・サービスや社会的課題に係る取組みが、全てのステークホルダーから高い信頼を得ている

・グループの人材、資産、ノウハウ、ネットワークを最大限活用し、世界的規模で競争優位性のある事業展開を行っている

・革新的且つ高品質な商品・サービスで、新たな顧客体験を創造し続け、世界中のお客さまの生活を豊かに美しくし続けている

・全世界の従業員がグループの目標、使命を理解し、その実現に向け、常識や過去にとらわれずに挑戦している

 

②中期経営計画

 2023年3月期から2025年3月期までの3カ年は、「VISION 2030」で掲げた「高い感性と品質で、ひとりひとりのからだとこころに、美しさと豊かさを提供し、『世界のワコールグループ』として進化・成長する」ことを実現していくための礎を築く重要な期間と位置付けています。グローバルベースでブランドを展開するものづくり企業として、多くの人々の豊かな生活に貢献するとともに、持続的な成長が可能な高収益企業への転換を果たすために、中期経営計画では以下の取り組みに注力します。

 

コア戦略

(国内事業)

レジリエントな企業体質への転換

<株式会社ワコール>

CX戦略とマーケティングイノベーション(再成長の実現)

・CX戦略の推進 ・ブランド力・商品開発力の強化 ・人材開発と組織開発

コスト構造改革の継続(収益性の向上)

・働き方改革、ものづくり構造改革、費用対効果の追求による収益力の向上

<連結子会社>

不採算事業の対処(収益性の向上)

・確実な利益を出し続ける体制の構築(恒常的な黒字化)

・定期的な点検(半期毎)を通じた撤退・切り離しの判断と実行

(海外事業)

グローバル成長の加速

グローバルでのDX加速(CX戦略の推進)

・オフラインとオンラインを融合した顧客体験価値の向上

・デジタルマーケティングの強化による新規顧客の獲得

・データ活用・CRM強化による既存顧客のロイヤル化

(サステナビリティ)

マテリアリティに対する取り組みの推進

・経営理念の実践と競争力強化に向けた人的資本と組織能力の強化

・深刻化する環境課題と人権課題への対応強化

・社会価値創造に向けた共創イノベーションの推進

(財務)

資本コストを上回るROEの創出

・収益力の向上と資本効率の改善

・コーポレートガバナンスのさらなる透明性向上

・重大コンプライアンス違反の撲滅

 

取締役会の実効性向上に向けた取り組み

 中期経営計画では、「グループ経営の推進」「グループ力の強化」を引き続き、経営の重要課題と位置づけ、中長期での持続的成長を支える強固な経営基盤の構築を目指してまいります。また、取締役会の実効性向上に向けて、役員報酬制度の見直しに継続して取り組むほか、取締役会の役員構成の最適化(専門性・独立性・多様性の確保)に努めます。

 

(中期経営計画期間における具体的な取り組み)

・経営体制の見直しと事業責任者の明確化

・役員報酬制度の継続的改善

・取締役会の多様性確保

 

財務戦略:

 財務戦略については、営業キャッシュフローを活用し、成長に向けてIT・デジタル投資を行うとともに、新規事業投資の機会を探ってまいります。また、収益力の向上を最優先課題として取り組むと同時に、資本効率の改善に向けて積極的な株主還元を実施することで、ROE向上に取り組んでまいります。

 

(中期経営計画の基本方針)

・収益力の向上を最優先課題として取り組むと同時に、資産効率・資本効率を改善させることで、ROE向上を実現

・将来成長への投資を優先すると同時に、資本効率の改善に向けて積極的な株主還元を実施

 

中期経営計画期間(2023年3月期~2025年3月期)のガイドライン

政策保有株式

・積極的な政策保有株式の縮減を継続して実施

・中長期的な政策保有株式の保有指標は、純資産の15%以下

株主還元

・配当性向50%以上を目安にした安定的な配当の実施

・資本効率の改善を目的に、機動的な自己株買いを実施

・適切な成長投資がない場合は、資本効率の更なる改善に向けて、追加還元を実施

成長投資

・成長に向けてIT・デジタル投資を行うとともに、新規事業への投資機会を検討

 

③2024年3月期の方針

 2024年3月期につきましては、多くの国や地域で、感染症の収束に伴う個人消費回復の期待と、物価高や地政学リスク、金融不安などに伴う消費減速の懸念が混在していることから、不安定な事業環境が継続するものと想定しております。このような環境のもと、当社グループは引き続き、複雑化・多様化する社会課題への取り組みを将来の「成長機会」として捉え、事業を通じて「社会課題の解決」と「持続的成長」を両立する「サステナビリティ経営」を推進するとともに、「資本効率重視の経営へさらなる変化」「ガバナンスの強化」「事業収益力の改善」に注力することで、企業価値の向上に取り組んでまいります。なお、資本効率重視の経営への変革を推進し、経営の実効性を高めることで、「業績の立て直し」と「PBR改善」を早期に実現するため、現在の中期経営計画のリバイズを実施することとしました。中期経営計画で掲げる事業戦略を再点検するとともに、収益性と資本効率の改善に向けた経営の基盤強化策を改めて検討し、2023年11月頃に公表する予定です。

 上記の取り組みにより、2024年3月期の連結業績は、売上収益2,050億円、営業利益60億円、税引前利益70億円、親会社の所有者に帰属する当期利益48億円を見込んでおります。年間の主要な為替レートは、1米ドル=130.00円、1英ポンド=160.00円、1中国元=19.00円として計画を策定しております。

④目標とする経営指標

主要指標:

 

2024年3月期

(中期経営計画2年目)

2025年3月期

(中期経営計画最終年度)

売上収益

2,050億円

2,200億円

事業利益

60億円(2.9%)

160億円(7.3%)

営業利益

60億円(2.9%)

165億円(7.5%)

税引前利益

70億円(3.4%)

180億円(8.2%)

親会社の所有者に帰属する当期利益

48億円(2.3%)

125億円(5.7%)

EPS

88円

200円以上

ROE

6%

 

財務指標:

 

2023年3月期~2025年3月期

3カ年累計

政策保有株式の縮減

縮減目標を150億円に引き上げ

(当初計画は100億円)

総還元性向

100%以上

株主資本

2,100億円(2025年3月末)

 

(3) 会社の対処すべき課題

資本効率重視の経営へさらなる変化:

 当社においては、将来の成長を加味した市場評価である時価総額が純資産を下回って推移しており、収益性を早期に改善し、資本コストを上回る資本収益性を達成することで、低迷するPBRを1倍以上の水準に回復させることが重要課題と認識しております。そのため、各事業会社・各事業部が従来以上に収益性と資本効率を重視する経営へ移行するとともに、実効性の高い戦略を策定・遂行することで、持続的な成長を通じた中長期的な企業価値向上を実現してまいります。なお、自社の資本収益性や市場評価に関する分析・評価、及びPBRの改善に向けた方針や目標・管理指標、具体的な取り組み、実行の時間軸については、2023年11月頃に開示する予定です。

 

ガバナンスの強化:

 資本効率重視の経営へ移行し、資本コストを上回る資本収益性を達成するためには、業務執行に対する取締役会の監督機能のさらなる強化を図り、経営の実効性を高める必要があります。なお、当社の課題である収益力と資本効率の改善を着実に実行するため、取締役会のスキルセットを検証し、投資・金融資本市場に関する経験や知見を有する社外取締役を追加選任することとしました。

 

事業収益力の改善:

 感染症拡大に伴う各国・地域の行動規制は緩和されたものの、感染症の経験を通して変化した消費者ニーズや消費行動への対応が不十分であったため、収益の回復が遅れています。新しい顧客体験価値の提供と新規事業の創出によって再成長を実現すると同時に、コスト構造改革を継続し、事業効率を高めてまいります。

 

その他の課題:

 少子高齢化による国内市場の縮小、ECの拡大などの流通の変化、消費者の価値観の多様化、節約志向の高まりに加え、地政学的リスクに伴う原材料及び輸送費の高騰など、当社を取り巻く経営環境は引き続き大きく変化しております。また、気候変動などの環境問題や人権問題への深刻さは増大しており、適切な対応と予防が必要です。

 当社では、マテリアリティ(重要課題)の項目として定めた「顧客への提供価値の最大化」、「従業員ひとりひとりの成長と働きがいの高い組織の構築」、「次世代に向けた地球環境の保全」、「すべての人が自分らしく活躍できる社会の実現」、「持続的成長の実現に向けたガバナンスの強化」への取り組みを通じて、「社会課題の解決」と「持続的成長」の両立を果たすことで、企業価値の向上に努めてまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。これらの将来予測には、不確定な変動要素が含まれており、実際の成果や業績などは、記載の見通しとは異なる可能性があります。

 

(1)サステナビリティ戦略

 気候変動などの環境問題や人権問題はさらに深刻さを増しており、持続可能な社会に向けた取り組みが強く要請されています。当社グループでは、社会からの要請に応えることはもちろんのこと、複雑化・多様化する社会課題への取り組みを将来の「成長機会」として捉え、事業を通じて「社会課題の解決」と「持続的成長」の両立を目指す「サステナビリティ経営」を推進することで、企業価値の向上に努めていきます。

 また、当社グループの企業価値向上を実現するためには、会社のあるべき姿や使命を明確にして行動できる社員を増やすことも重要な課題であります。経営理念の実践者を増やすことで、従業員一人ひとりの自己成長と企業成長を実現してまいります。

 

①ガバナンス

 当社グループでは、「サステナビリティ経営」を推進し、事業を通じた「社会課題の解決」と「持続的成長」の両立を実現するため、2022年4月より、「サステナビリティ委員会」を設置しています。また重要なサステナビリティ課題への対応強化を図るため、「サステナビリティ委員会」傘下に、4つの「部会」を設置しています。「サステナビリティ委員会」は、定期的に取締役会と同日に開催し、サステナビリティ課題に対する具体的な取り組み施策の立案、進捗状況のモニタリング、達成状況の評価を行うこととしています。取締役会は「サステナビリティ委員会」から報告を受け、当社グループのサステナビリティ課題への対応方針及び取り組みについて指示を行います。なお、代表取締役社長執行役員が「取締役会」及び業務執行レベルの最高意思決定機関である「グループ経営会議」の責任者であり、「サステナビリティ委員会」の委員長を務めています(2023年6月28日時点)。

 2023年3月期における「サステナビリティ委員会」の開催回数は、合計7回でした。主に、「サプライチェーンにおける温室効果ガスの削減」「環境配慮型素材の採用推進」「責任ある調達活動の推進」「サプライチェーンにおける人権尊重の推進」に対する課題共有と中期経営計画期間における具体的な活動内容と目標設定について議論を行いました。

 

推進部会について:

(カーボンニュートラル部会)

 ワコールグループの事業活動における環境影響・環境リスクを低減し、自主的かつ積極的に環境保全の活動を推進するため、気候変動対応やバックオフィスの環境負荷軽減など環境課題に関する活動方針や取り組み、環境保全に関連する戦略投資案件を審議するとともに、進捗状況のモニタリングを行います。

 

(資源循環部会)

 資源循環型社会の実現に向けて、サプライチェーン上の資源・資材の持続可能な利用及び省資源対策、廃棄物の削減・リサイクルを推進するため、環境配慮型資材の調達方針や品質基準を審議するとともに、生産や調達活動における廃棄物削減の進捗状況のモニタリングを行います。

 

(CSR調達部会)

 ワコールグループのCSR調達に関する計画立案と進捗確認の責任を担い、「ワコールグループCSR調達ガイドライン」に定める内容の遵守状況を、製造委託先や原材料調達先の自己評価等によるモニタリングから、分析・評価フィードバック、是正・改善計画、フォローアップという一連のサイクルを機能させることによって、的確に把握するとともに、継続的に是正・改善を行う取り組みを主導します。

 

(人権・D&I部会)

 人権方針に基づく人権尊重の責務が果たされ、その業務執行が適正に行われるよう、人権擁護に関わる教育啓発活動、および人権デュー・ディリジェンスの実行への助言・提言を行います。また、多様な社員を受け入れ、個々の能力を存分に発揮できる職場環境の実現に向けて、社内セミナーの開催をはじめとした各種施策を実施していきます。

 

②戦略

 世界での人口増加、少子高齢化、デジタル革命の進行、グローバル化、気候変動や人権課題の深刻化など、将来の予測は難しくなっています。当社グループでは、中長期経営戦略フレーム「VISION 2030」の策定にあたり、マクロトレンドや多様なステークホルダーからの要請事項を考慮に入れつつ、2030年までに想定される事業課題と社会・環境課題を洞察し、「解決すべき社会・環境課題」と「事業成長」の両評価軸からマテリアリティ分析(重要度評価)を行ったうえで、以下のマテリアリティ(重要課題)を設定しています。

 

マテリアリティ(重要課題):

対象

目的

マテリアリティ(重要課題)

顧客

顧客への提供価値の最大化

・パーソナライゼーションの追求による顧客体験価値の向上

・事業領域拡大への挑戦

・商品品質の深化とサービス品質の構築

従業員

従業員ひとりひとりの成長と、

働きがいの高い組織の構築

・自らの可能性を広げ、自信と誇りを持ち活躍できる人材への成長

・共創・協業による高い成果を発揮できる組織づくり

・継続的な従業員の健康増進と健康意識の向上

環境

次世代に向けた地球環境の保全

・環境負荷を低減する事業活動の推進

社会

すべての人が自分らしく活躍できる社会の実現

・社会課題を解決する共創イノベーションの推進

ガバナンス

持続的成長の実現に向けたガバナンスの強化

・透明性の高い経営の実践

・リスクマネジメント体制の強化

・収益性、資本効率の継続的改善

 

③リスク管理

 当社グループの経営全般に関するリスクについては、代表取締役社長執行役員を統括責任者とし、グループ管理統括担当取締役を委員長とする「企業倫理・リスク管理委員会」(事務局は経営企画部)を設置し、重要リスクへの対応と定期的なモニタリングを行っています。また「企業倫理・リスク管理委員会」は、当社グループ全体のリスク管理体制の運営状況を定期的に取締役会へ報告を行っております。なお各事業部門や子会社で管理可能なリスクについては、各組織が事業活動の中で対応を行っています。

 当社グループのサステナビリティ課題に係るリスクについては、「サステナビリティ委員会」及び各部会にて、直接操業及び一部上流・下流までを含むサプライチェーン全体への影響を短中長期的な視点で検証するとともに、それらの結果をさらに上部機関である「取締役会」に報告し、最終的に特定・評価するプロセスとなっています。また、リスクの管理についても「サステナビリティ委員会」及び各部会におけるモニタリングや達成状況の評価を通して実施しています。

 

④指標及び目標

 当社グループは、「サステナビリティ経営」を推進し、事業を通じた「社会課題の解決」と「持続的成長」の両立を実現するため、11の戦略マテリアリティ(重要課題)に対応する指標を設定しています。また、目標数値については現在検討を行っており、2024年3月期中に開示する予定です。

 

顧客:顧客への提供価値の最大化

 

戦略マテリアリティ

(重要課題)

具体的な取り組み

2030年までの非財務目標

パーソナライゼーションの追求による顧客体験価値の向上

お客さまの感動を生むために、お客さまとのつながりを増やし、お客さまから学ぶ

ワコールグループとつながりを持つ顧客数の拡大

顧客体験を向上させるワコールならではのサービスの体験人数の拡大

期待を超える商品と愛される商品をつくる

顧客データを活用した新製品やサービス開発の推進によるインナーウェア事業の再成長

事業領域拡大への挑戦

お客さまをあらゆる角度でサポートするための、新領域への挑戦

レディースインナー以外の事業成長と収益力の向上

Well-being実現に向けた新規事業の創出

社内リソースの新領域への展開

世界のお客さまに感動を届けるための、グローバル成長の実現

海外での事業拡大

商品品質の深化とサービス品質の構築

時代の要求する品質管理体制および、品質レベルの追求

商品品質の継続的な監視と改善活動の実施

店頭・デジタルサービス品質の維持・向上

 

従業員:従業員ひとりひとりの成長と、働きがいの高い組織の構築

 

戦略マテリアリティ

(重要課題)

具体的な取り組み

2030年までの非財務目標

自らの可能性を広げ、自信と誇りを持ち活躍できる人材への成長

世代・役職関係なく、主体的に自己能力を高め、熱意をもってチャレンジする人材育成

自発的なキャリアデザイン、スキルアップの取り組みの強化

熱意を持ってチャレンジできる人材育成と環境の整備

共創・協業による高い成果を発揮できる組織づくり

多様な立場の人が協力し、ミッションを達成できる組織風土の醸成

多様な立場の人が協力できる労働環境の整備

会社のあるべき姿や使命を明確にして行動できる従業員の増加

継続的な従業員の健康増進と健康意識の向上

従業員のこころと身体の健康増進

「生産性」「心身の健康」の向上

健康への理解力(リテラシー)の向上

 

環境:次世代に向けた地球環境の保全

 

戦略マテリアリティ

(重要課題)

具体的な取り組み

2030年までの非財務目標

環境負荷を低減する事業活動の推進

従業員・消費者双方における環境意識の醸成

事業活動におけるエコ活動の可視化

脱炭素社会の実現

CO2排出量の削減

廃棄物削減の推進

製品廃棄率の低下

資源循環型社会の実現

環境配慮型素材の使用率向上

※詳細については、「(2)気候変動への対応」をご覧ください。

 

社会:すべての人が自分らしく活躍できる社会の実現

 

戦略マテリアリティ

(重要課題)

具体的な取り組み

2030年までの非財務目標

社会課題を解決する共創イノベーションの推進

女性のQOL(Quality of Life)向上への貢献

ブレストケア活動の推進

女性のQOL向上に貢献するニーズ(商品・サービス)対応とシーズ開発

ステークホルダーとの継続的な対話を通した女性のQOL向上への貢献

ダイバーシティ&インクルージョンの推進

ダイバーシティ課題(ジェンダーなど)の理解に向けた社内啓発活動の推進

ダイバーシティ課題(ジェンダーなど)の解決に向けた外部ステークホルダーとの対話、共創活動の推進

人権の尊重とCSR調達活動の推進

人権デュー・ディリジェンスの構築・実施、人権教育の推進

CSR調達活動の対象範囲拡大

 

ガバナンス:持続的成長の実現に向けたガバナンスの強化

 

戦略マテリアリティ

(重要課題)

具体的な取り組み

2030年までの非財務目標

透明性の高い経営の実践

実効性の向上を実現する最適なコーポレート・ガバナンス体制の維持・構築

コーポレートガバナンス・コードの実践

取締役会の機能発揮と多様性確保

企業価値を向上させる役員報酬制度の継続的改善

公正かつモチベーション向上につながる評価・報酬制度の構築

10

リスクマネジメント体制の強化

法令遵守の徹底と高い倫理観を持った組織体の構築

企業活動における不適切な行動の防止、役員・従業員一人ひとりのコンプライアンス意識の向上

事業リスクへの着実な対応による組織レジリエンスの強化

重要リスクの選定方法や対応方針の見直し、DXや情報通信技術の運用に伴う情報セキュリティ対策の推進、事業継続体制(BCP)強化

11

収益性、資本効率の継続的改善

経営戦略の実行と役割権限の明確化

中長期戦略の実効性向上に向けた重要業績評価指標の管理強化と費用対効果の検証

成長の実現に向けた事業ポートフォリオマネジメントの実行

適時適切な意思決定を行う執行体制の構築

 

(参考)サステナビリティ委員会(推進部会)の具体的な活動について

※カーボンニュートラル部会、資源循環部会の活動については、「(2)気候変動への対応」をご覧ください。

CSR調達部会:

目的・役割

CSR調達活動の推進(責任のある調達活動の推進)

3カ年の活動方針(2023年3月期~)

・「人権」「労働慣行」「環境」「倫理」など、社会的要求事項の的確な状況把握と継続的な是正・改善

・実効性、合理性を伴った活動対象工場の拡大

2023年3月期

具体的な活動

・海外子会社における委託先工場でのCSR調達活動を開始

・現地監査、ならびに援用監査の基準項目を改定

・委託先工場で発生した課題に対する是正・改善活動の推進

 

人権・D&I部会:

目的・役割

人権尊重・D&Iの推進

3カ年の活動方針(2023年3月期~)

・人権リスクの特定、人権デュー・ディリジェンスの実施体制の構築

・改正障害者差別解消法、LGBTQ+顧客への対応方針の策定・実行

・D&I推進に関するロードマップ策定・開示

2023年3月期

具体的な活動

・サプライチェーン上における人権課題に対して簡易アセスメントを実施

・人権デュー・ディリジェンスの実施に向けて有識者ヒアリングを実施するとともに、3カ年の具体的な取り組み項目を検討・決定

・D&I推進に向けて有識者ヒアリングを実施し、2024年3月期以降の取り組み内容を決定

 

(2)気候変動への対応(TCFD提言への取り組み)

 地球や企業活動に重大な影響を及ぼす気候変動は、当社グループの経営にとってリスクであると同時に、新たな事業機会をもたらすものと考え、健全な企業としての発展と持続可能な社会の実現を目指して、環境課題の解決に向けた取り組みを推進するとともに、環境情報に関する開示の拡充に取り組んでいます。

 

温室効果ガス排出量の削減に向けて:

 脱炭素社会の実現に向けた取り組みを進め、サプライチェーンにおける温室効果ガスの排出量削減をより確実なものにするため、2021年よりワコール事業(国内)のサプライチェーン全体における温室効果ガス排出量(Scope3)の算定を開始しました。また、2030年に向けた国内事業所における温室効果ガス排出量(Scope1&2)の削減目標を開示したほか、2022年6月には、ワコール事業(国内)のサプライチェーン全体における温室効果ガス排出量(Scope3)の削減目標も開示しています。

 

削減プロセス:

 現在、サステナビリティ委員会傘下のカーボンニュートラル部会が中心となり、温室効果ガス排出量の削減目標の達成に向けた具体的な行動計画を検討しています。目標として掲げる国内事業所の温室効果ガスの排出量実質ゼロに向けては、流通センターに新たな太陽光発電システムを導入するほか、既存事業所においても順次再生可能エネルギーへの切り替えを進める方針です。一方、サプライチェーンにおける排出量の削減に向けてはサプライヤーとの協働が不可欠となります。削減に向けた行動計画やプロセスを検討するとともに、サプライヤーへの温室効果ガス排出量削減の働きかけを行う予定です。

 

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への対応:

 当社グループは、2021年9月、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言へ賛同を表明しました。また、TCFDの提言に沿った、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目についての情報については、2022年6月末に開示しています。

 

①ガバナンス

 気候変動に関するガバナンスは、サステナビリティ戦略のガバナンスに組み込まれています。詳しくは、「(1)サステナビリティ戦略 ①ガバナンス」をご覧ください。

 

②戦略

 当社グループでは、分析可能なデータが揃った事業より順次シナリオ分析を実施し、気候変動問題のリスク及び機会の影響評価を行っています。

 

リスク:

 当社グループの事業・戦略・財務計画などに影響の大きいリスクとしては、暴風雨、洪水など異常気象の激甚化や、炭素価格の上昇などがあると考えています。

機会:

 当社グループは、製品廃棄の少ない製造・販売体制を構築するなど、環境に配慮した活動を推進しています。今後も「環境目標 2030」の達成を目指し、環境負荷の少ない事業活動を推進していきます。消費者や社会の環境に対する意識は高まっているため、当社グループのこのような事業活動は、売上拡大の機会になると考えています。

 

TCFD提言に基づくシナリオ分析:

 当社グループは、TCFDの提言に従い、2023年3月期に気候変動に対するシナリオ分析を実施しました。シナリオ分析ではグループ全体に対する売上高の比率が最も高い㈱ワコールを対象に、2℃及び4℃の気温上昇時の世界を想定し、リスク・機会の抽出と対応策を検討しました。シナリオ分析の結果、2℃上昇時は環境意識の高い消費者からの支持の獲得などポジティブな影響がある一方で、炭素税の導入などの移行リスクが事業にネガティブな影響を及ぼす可能性があることがわかりました。また、4℃上昇時は暴風雨、洪水をはじめとする異常気象の激甚化などの物理的リスクが事業にネガティブな影響を及ぼす可能性があることがわかりました。今後も順次シナリオ分析の範囲を拡大し、グループ全体として詳細なリスク分析を行えるよう取り組みを進める予定です。

 

リスク・機会の種類

影響

対応策

2℃

4℃

移行

政策・法規制

炭素税の導入

リスク

環境税導入により諸費用が増加

・再生可能エネルギーの導入とともに、省エネ・創エネ活動などの推進により、コスト増加を回避または軽減

・サプライヤーと協働でCO2排出量削減を推進

電力小売価格の上昇

リスク

再生可能エネルギー導入などに伴う電力価格の上昇

・省エネ・創エネ活動などの推進により電力調達量を削減し、コスト増加を回避または軽減

評判

消費者意識の変化

機会

環境配慮型の当社製品への消費者需要の拡大

・再生繊維などの環境配慮型素材の使用比率を高めるなど、地球環境にやさしい事業活動を推進

・品質の高いものづくりを推進し消費者に長く使用いただくことで、消費者の衣料廃棄量の削減へ貢献

物理的

急性

異常気象の深刻化・増加

リスク

異常気象増加に伴う店舗営業日の減少

・CX戦略の推進によりビジネスモデルを変革。店舗の売上減少をECでカバーできる販売体制を構築

慢性

降雨日の増加や平均気温の上昇

リスク

気象パターンの変化に伴う在宅機会の増加、外出機会の減少

・ノンワイヤー商品など、在宅ニーズに対応する製品開発を強化

・自社ECの利便性を高めることにより、消費者の購買機会及び意欲の低下リスクを軽減

機会

機会

気候変動に伴うインナーウェアへの意識の高まり

・気候変動による消費者ニーズの変化を認識し、ニーズに対応する機能性製品の開発の強化

 

③リスク管理

 気候変動に関するリスクは、サステナビリティ戦略のリスクに含めて管理しています。詳しくは、「(1)サステナビリティ戦略 ③リスク管理」をご覧ください。

 

④指標と目標

 当社グループは、気候変動問題の解決と脱炭素社会の実現に向けた取り組みを進めるため、2030年に向けた独自の環境活動目標「環境目標 2030」を掲げています。

 

環境目標 2030

1.自社排出量(Scope1&2)「実質ゼロ」<対象:国内事業所>

温室効果ガスの自社排出量(Scope1&2)実質ゼロを目指し、順次再生エネルギーへの切り替えを実施

2.製品廃棄「ゼロ」<対象:㈱ワコール>

製品廃棄ゼロを目指すとともに、工場での残材料破棄削減に向けた取り組みを推進

3.環境配慮型素材の使用比率「50%」<対象:㈱ワコール>

再生繊維やリサイクル糸などに切り替えるなど、環境配慮型素材の使用比率を「50%」までに高める

4.サプライチェーン排出量(Scope3)「20%削減」<対象:ワコール事業(国内)>

温室効果ガスのサプライチェーン排出量(Scope3)20%削減を目指し、パートナー企業との取り組みを推進

 なお、当社グループのCO2排出量は以下のとおりです。

(対象事業所:本社、スパイラルビル、浅草橋ビル、麹町ビル、京都ビル、新京都ビル、守山流通センター、伏見流通センター、㈱ワコールマニュファクチャリングジャパン(長崎・熊本・福岡・福井・新潟)

 

スコープ1 CO2排出量の推移(単位:t-CO2)

 

2020年3月期

2021年3月期

2022年3月期

2023年3月期

日本

1,784

1,611

1,736

1,701

対2020年3月期

 

△10%

△3%

△5%

 

スコープ2 CO2排出量の推移(単位:t-CO2)

 

2020年3月期

2021年3月期

2022年3月期

2023年3月期

日本

4,658

4,103

4,369

4,179

対2020年3月期

 

△12%

△6%

△10%

 

※海外事業については、自社排出量(Scope1&2)の把握から開始し、2025年3月期までに目標を開示する計画です。

※その他の環境データについては、当社ホームページをご覧ください。

https://www.wacoalholdings.jp/sustainability/environment/activities/#data

 

(参考)サステナビリティ委員会(推進部会)の具体的な活動について

カーボンニュートラル部会:

目的・役割

脱炭素社会の実現(環境負荷の低い事業活動の推進)

3カ年の活動方針(2023年3月期~)

・国内:温室効果ガス排出量の削減に対する行動計画の策定・実行

・海外:温室効果ガス排出量の試算、削減目標の策定

2023年3月期

具体的な活動

・国内事業所の排出量ゼロに向けて、削減シナリオの立案に向けた研究活動を実施するとともに、パートナー企業を選定(2024年3月期に具体的な移行計画を策定)

・海外の全事業所(事務所・倉庫・工場)のエネルギーデータ取得

・サプライチェーン全体の排出量削減に向けて、削減シナリオの立案に向けた研究活動を実施。強化して取り組むホットスポットを特定

 

資源循環部会:

目的・役割

資源循環型社会の実現と廃棄物削減の推進(㈱ワコール対象)

3カ年の活動方針(2023年3月期~)

・環境配慮型素材の使用比率の引き上げ(2023年3月期の使用比率17%を、26%まで引き上げ)

・製品廃棄の削減:1.1%水準(2020年3月期水準)へ回帰(2023年3月期の廃棄率1.1%)

・工場、仕入先における残材料の廃棄削減(目標:2021年3月期に対して約3割を削減)

2023年3月期

具体的な活動

・環境配慮型素材の定義を検討(材料混用率20%以上の素材を、環境配慮型素材と定義)

・環境配慮型素材の使用率の目標値を策定

・製品・残材料廃棄の削減目標値を策定

 

(3)人的資本

 基礎研究、商品の企画・開発から材料調達、生産、販売に至るまでのバリューチェーンについて、その大半をグループ内のリソースによって築いている当社グループにとっては、「人材」は最も重要な経営資源であり、人的資本の最大化を目指すことは、経営上の重要な取り組みとなります。当社グループの従業員が「やりがい・働きがい・生きがい」を感じながら働ける魅力ある企業風土を実現することで、社員一人ひとりが持つ能力を最大限に発揮し、生産性や競争力の向上といった組織の成果に結びつき、持続的な成長につながっていくものと考えています。

 

①ガバナンス

 各事業会社が各社の事業戦略に基づき人事戦略を展開していくうえでは、個社の人事部門が主体となって、人事課題に対する具体的な取り組み施策を立案、実行し、進捗状況のモニタリング、達成状況の評価検証というサイクルを回しています。一方、グループ全体の人的資本に関するガバナンスを有効に機能させるために、人権・DE&Iやコンプライアンスの観点を中心に、各社の取り組み、整備の状況について定期的にモニタリングを行い、状況に応じた指示や要請を行っています。

 中核会社である㈱ワコールでは、社長を含む取締役が参加する「人材開発会議」を設置しており、人材戦略に関する方針の検討、策定を行っています。

 

②戦略

 事業環境の不確実性がますます高まる中、ビジネスモデルの変革を早期に進めていくうえで、担い手となる人材に関する戦略の重要性は増すばかりです。とりわけ日本国内においては少子高齢化による労働力人口の減少が進み、これまで以上に人材獲得競争が激化することは確実であり、魅力ある企業であるための人材戦略を策定、実行していく必要があります。また、果断なく変革を進めていくためには、従業員個人のさらなる成長と、個の力を組織の力に結びつけるための環境や風土が必要です。

 ㈱ワコールにおいては、収益性の早期改善のための施策と並行して、中長期的に選ばれ、選ばれ続ける会社であるために、キャリア自律の支援・成長機会の提供(人材開発)、チーム力の最大化のためのマネジメント力強化(組織開発)、働きがいを支える制度・仕組み、DE&I、Well-beingの実現(風土醸成)の3つの軸で取り組みを進めていきます。

 

人的資本戦略(対象:㈱ワコール)

基本方針

キャリア自律の更なる促進と働きがいが実感できる風土を醸成し、社員一人ひとりの個性・強みが発揮される”社員総活躍企業”を目指す

求める人物像

“自律革新型人材”

経営理念を尊重し、具現化できる人材

既成概念や現状の枠組みを見直し、熱意をもって革新できる人材

主体的に自己の能力を高め、新たな可能性にチャレンジできる人材

良好なチームワークを構築し、組織目標に貢献できる人材

健康的で健全な生活習慣を実践できる人材

経営戦略に基づく人的資本の課題

<方向性>

少数精鋭の組織運営の実現=個の成長×組織力の向上×魅力ある風土の醸成

早期に収益力を改善するための要員計画マネジメントと並行して、中長期的な成長のための人材育成・組織開発・風土改革を実行する。

<重点課題>

①会社の成長を担う人材の獲得・育成・登用

・事業ポートフォリオやビジネスモデルの変化に合わせた人材ポートフォリオに基づく、採用、育成を行う。

・自律的なキャリア形成のための機会、時間の提供を拡大し、個の成長を支援する。

②個の力を組織の成果に結びつけるためのマネジメント力の向上

・サクセッションプランに基づく適正な登用・配置を強化する。

・健全なフィードバック文化の醸成を通じ、マネジメント力・組織力の向上を実現する。

③エンゲージメント・心理的安全性の高い組織風土の醸成

・DE&Iを推進し、多様な個が公正な環境下で活躍できる心理的安全性の高い風土を醸成する。

・公正かつ時代に合った人事・報酬体系を実現するとともに、登用・任用基準・プロセスを明確にする。

人的資本の最大化に

向けた取り組み

Ⅰ.人材獲得

Ⅱ.成長支援(育成・リスキリング・キャリア形成)

Ⅲ.マネジメント力の強化

Ⅳ.DE&Iの推進

Ⅴ.Well-beingの実現

 

人的資本の最大化に向けた取り組み

 

Ⅰ.人材獲得

 当社グループは、先人たちが前例にこだわることなく今日の企業グループを築いてきたように、今後も大胆に、また果敢にチャレンジする風土を大切にしながら、新風を吹き込み新しい価値を創造する多様性の尊重こそが競争の源泉になると考えており、新卒採用と同様に経験者採用(第2新卒採用、キャリア採用等)にも力を入れております。㈱ワコールでは、今後も引き続き、経営幹部候補人材、グローバルやEC、DX等の専門人材の補完など、総合職の採用人員の3~5割程度を経験者採用としていく予定でおります。

 

㈱ワコールの採用状況(総合職):

質問内容

 

2020年3月期

2021年3月期

2022年3月期

2023年3月期

経験者採用の状況

男性

2

4

1

4

女性

6

6

1

6

合計

8

10

2

10

新卒採用の状況

男性

10

13

7

6

女性

13

16

16

10

合計

23

29

23

16

経験者採用比率

26%

26%

8%

38%

 

Ⅱ.成長支援(育成・リスキリング・キャリア形成)

 当社グループでは、従業員一人ひとりの個性や強みが発揮される企業への変革を目指し、学びの機会の提供やキャリアアップの支援など、一人ひとりの成長を支援する各種研修制度を整えています。

 

<人材育成>

 ㈱ワコールでは、「ワコールの発展は、ワコールの社員一人ひとりの資質の向上とその協力によって実現する」という考え方のもと、経営理念を実践できる人材の育成を目的に、従業員のキャリア形成と能力開発を支援する研修や従業員の主体的な学びをサポートする自己啓発支援制度などにより、従業員の成長を支援しています。

 また、モノづくり基礎学習等の品質や商品力を維持・向上させるための研修や、お客さまにご満足いただくための「コンサルティング力」を高める研修など、各部門特性に応じた人材育成を実施しているほか、海外の生産工場に日本から技術者を派遣して支援・指導するなど、競争力の高いものづくりの伝承や、グローバルベースでの品質や生産性の向上に注力しています。

 

新人材育成体系:

 ㈱ワコールでは、2019年4月より、経営理念を具現化できる自律革新型人材の育成と人が育つ風土醸成を目的に、新たな人材育成体系「WACOAL TERAKOYA」の運用を開始しました。新たな育成体系では、従業員の自発的なキャリア構築と継続的学習をサポートするため、階層別研修以外の研修を拡充するとともに、手挙げ制で参加できる機会を増やしています。研修内容もアウトプット中心の実践型研修に変更したほか、他企業との合同研修も実施することで、多様な視点を学べる内容としています。事業環境が変化する中で、経営理念を実践し新たな価値を創造できる人材の育成を通して、持続的な成長を実現していきます。

 

人材育成プログラム(一部):

プログラム名

実施目的

一人当たりの

研修時間

年間参加人数

2022年3月期

2023年3月期

階層別研修

役割・資格の変化に伴う、期待役割の認識及びマインドセットを目的に実施します。同時に会社の方向性と自身のキャリアビジョンを考える機会とします。

1~6日

(研修による)

811名

684名

ビジネススキル

ビジネスマンとして求められる必須スキルを、社内のみならず社外人材との交流を通して学ぶことで、社内外で通用する普遍的なビジネススキルを体得できます。

7.5時間

58名

61名

ワコールアカデミー

ワコールにおける社内ナレッジの共有、知識伝承、組織開発等を目的に社内外の講師による研修・セミナーを開催します。

7時間~

2,334名

1,217名

Global Talent Development

事業のグローバル化が進む中、グローバルコミュニケーションスキル(業務遂行能力、語学力、異文化適応力等)を発揮できるグローバル人材を育成します。

海外業務研修

2年

5名

4名

海外語学研修

6ヶ月

グローバルコミュニケーション研修

1日

セルフラーニング

Eラーニングを活用した「いつでも、どこでも」学べるコンテンツ提供と主体的な能力開発・自己研鑽を支援する制度があります。

自己啓発援助制度

36名

160名

通信教育・Eラーニング

253名

2,138名

※新型コロナウイルス感染症の影響等のため、中断

 

<リスキリング>

 ㈱ワコールでは、事業成長や新規事業に必要なスキルを持った人材を育成するため、リスキリング(学び直し)による人材育成に取り組んでいます。2024年3月期においては内勤業務の労働生産性向上を目指したITリテラシーの底上げ策の一環としてオンライン学習ツールの運用を開始しました。

 

<キャリア形成>

 ㈱ワコールでは、自ら異動先を希望できる「社内ジョブチャレンジ」制度、グループ外の企業や団体への出向によって社内では得られない経験を可能にする「社外キャリアチャレンジ」制度を拡充し、従業員が自発的にキャリアを広げる機会を増やすことで、イノベーションを起こすことができる人材の育成に取り組んでいます。また、定期社内公募の対象部門を拡大し、グループ会社も対象とする事によって選択肢を広げるとともに、応募対象者も拡大し、従業員と組織双方が積極的にキャリア開発や人材獲得に動ける仕組みを取り入れています。

 

Meet My Careerプログラム:

 ㈱ワコールは、従業員が自らのキャリアを主体的かつ前向きに切り拓いていくことを目的にした、キャリア形成に伴う多様な制度・仕組みを拡充し、キャリア自律を促進することによって働きがいの向上と組織の活性化を目指す「Meet My Careerプログラム」を導入しております。このプログラムでは、従来型の自己申告やキャリア面談、研修・自己啓発、異動に加えて、ジョブチャレンジや社内公募、社外キャリアチャレンジ、長期休職、副業など、従業員が主体的にキャリア・可能性を切り拓くための機会を供する制度を体系的に示すことによって、従業員に対して多様な働き方の能動的な実践を促し、同時に今までと異なるスキルを身につけ、磨く機会を供し、個々人の多様なキャリア開発の実現を早めることを目指しております。さらに2024年3月期からは、総合職の新入社員の配属にあたり、受け入れを希望する部門と新入社員のマッチングを行うイベント(Meet My First Career)を開催する等、新たな取り組みを行っています。

プログラム名

実施目的

人数(人)

2022年

3月期

2023年

3月期

ジョブチャレンジ、社内公募

自律型人材形成の一環として

「ジョブチャレンジ」自らの意思と意欲を前提に自己異動希望を示す者に、ジョブローテーションの機会を支援し、組織全体の活性化につなげる。

「社内公募」組織自らが求める人材を得ることで部門の強化を図り、社内組織全体を活性化につなげる。

15

18

社外キャリアチャレンジ

変化の激しい時代において、社外での就業経験を通して多様な視点や価値観を取り入れ、知識のアップデート、リスキルを行うことで、適応力やレジリエンスを高めることにつなげる。

19

38

副業申請者

1.社外での活動に携わる中で、自身のスキル・能力・専門性を高め、本業での発揮能力を高める。

2.今後のキャリアを見据えたうえで、社外ネットワークの構築及び新たな知見、スキルを獲得する。

3.自分の趣味や興味のあることに取り組み、更なる収入を得ることで多様なライフの充実を実現する。

40

38

長期休暇制度

利用者

「自己啓発・自己開発を目的とした場合」と「配偶者が転勤、または遠隔地に居住する者と婚姻した後」において、一定期間の休職を認めることにより、就業継続を支援する。

3

5

 

Ⅲ.マネジメント力の強化

 中核会社である㈱ワコールは、売上の低迷と固定費率の高いコスト構造を背景に収益力が低下しており、トップラインの成長回帰と収益力の改善に向けて、中期経営計画で掲げる事業戦略の見直しを進めております。経営の実効性を高めるために、的確かつスピーディーに意思決定を行い、組織の成果に貢献するためのマネジメント力の強化は極めて重要な課題であり、改めてサクセッションプランに基づくマネジメント人材の発掘、育成、任用に取り組みます。また、組織力の強化の観点からは、健全なフィードバック文化の醸成も必要であると認識しています。ビジョンの実現と戦略を実行でき、かつ個の力を組織の成果に結びつけるためにメンバーを動機づけることができるマネジメント人材の確保・育成の取り組みを推進していきます。

 

<マネジメント人材の育成>

 2024年3月期においては、新たにシニアマネジメント向けの経営理念浸透策の一環として実施するトレーニングと、全管理職を対象とした、イノベーションの源泉である多様性の推進と組織開発の基盤である心理的安全性、アンコンシャスバイアスの基礎知識の習得に取り組む計画です。

<評価制度の見直し>

 ㈱ワコールでは、人材の多様性を高めつつ、より生産性の高い少数精鋭の組織づくりを進めています。また、それらのベースとなる「公正な評価や処遇」、「組織の魅力を高め続けることができるリーダーの任用」についても制度及び運用の見直しを随時行っており、フィードバック文化の醸成ならびに評価結果への納得度を高めることで、組織力の強化を図っています。また、2024年3月期から新たに評価項目として経営理念(VISION 2030、アクション)に基づく要素を設定し、経営理念の浸透・実践につなげると共に、評価をコミュニケーションツールの一つとして活用し、対話の機会の充実を図っています。

 

Ⅳ.DE&Iの推進

 当社グループは、従業員一人ひとりの働きがいを高める仕組みを追求しつつ、人的資本の量的・質的な適正化を図ることによって、健全な企業風土と強固な経営体質の構築を進めております。「相互信頼」の経営理念のもとに、多様な人材や価値観を受容し相互に信頼関係を深め、従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる職場環境の実現を目指しております。引き続き、多様なキャリアパスや働き方の選択肢を拡充させるほか、新しい人事評価制度の導入を進めるなど、変化の激しい市場に対する組織の意思決定において、従業員の多様性を活かすことができる人材施策を実行してまいります。

 

<女性活躍>

 ㈱ワコールは、お客様そして従業員の多くが女性であることから、より多様な価値観を経営の意思決定に反映する必要があるため、女性の活躍推進を重要な経営課題と捉えています。そのため、女性特有のライフステージに応じた就労環境を整備し、より柔軟な働き方を促進するとともに、性別や年齢に拘らず能力や成果に応じて昇格・登用されるしくみを整備しています。なお、㈱ワコールは2021年2月に女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良であるとして、厚生労働省から「えるぼし認定」を取得いたしました。

 

<女性の管理職への登用>

 ㈱ワコールでは、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しており、2025年3月期までに課長級以上の女性管理職比率を30%以上に高めることを目指しています。2023年4月1日時点の課長級以上の管理職に占める女性比率は29%となっています。

 性別を問わず、早い段階からリーダー適性の高い人材の発掘を行い、経営幹部候補への育成機会の提供をさらに進めてまいります。また社員の自律的な成長をサポートしつつ、様々な事業、職務の経験を促して、継続的にキャリア意識の醸成に取り組み、経営幹部を担う人材の育成を進めます。

詳しくは当社ホームページに掲載しておりますのでご参照ください

 

:女性活躍推進法に基づく行動計画

https://www.wacoalholdings.jp/sustainability/resource/diversity/

:ESGデータ集(ダイバーシティ&インクルージョンほか)

https://www.wacoalholdings.jp/ir/library/esg_presentation/

:(厚生労働省HP) 女性の活躍企業データベース・「株式会社ワコール」

https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/detail?id=284

 

<男女間の賃金差異>

 女性活躍の一つの指標である男女の賃金の差異は、㈱ワコールで52.9%(正社員53.9%、パート・有期社員58.1%、総合職79.2%、管理職91.2%)となっています。㈱ワコールでは、同一の役割であれば男女で賃金の格差は設けていないため、この差は、①管理職における男性比率が約70%程度あること、②総合職採用、特に新卒採用における女性比率が年々高まっており、結果として入社10年以下の社員においては女性社員の比率が高いこと(10年以下110名、51.9%、10年超71名、15.9%)、③総合職に対し販売職の人数比率が高いことによるものです。

 男女の賃金の差異の解消に向けて、総合職における新卒採用や経験者採用で女性比率を高めているほか、年齢や性別に関係なく能力による登用を行い、管理職や役員の女性比率を高めてまいります。

 

<外国人の管理職への登用>

 当社グループは、世界の国や地域で事業を営む企業グループとして、米国や欧州、中国をはじめとする海外各法人の代表(社長)及び重要な経営ポストに現地人材を登用しております。また、㈱ホンコンワコール、フィリピンワコール㈱及び㈱インティメイツオンライン(米国)の代表(社長)は女性が務めております。今後も引き続き、海外各市場での顧客視点による事業拡大、競争優位性の強化のために、国籍を問わない多様な現地人材の採用と重要な管理職ポストへの登用を継続的に推進してまいります。

<ワークライフバランス>

 ㈱ワコールでは、従業員が豊かな人生を送り、仕事において持てる能力を最大限に発揮できる職場環境の整備に取り組んでいます。この取り組みの一つ、仕事と育児の両立支援では、当事者だけでなく周囲でサポートするメンバーの双方にとって働きやすく働きがいのある職場を目指し、制度や風土の整備に取り組んでいます。また、次世代育成支援対策推進法(次世代法)に基づいた行動計画を策定し、目標達成に向けて取り組みを行った結果、2018年には3回目の「くるみん」認定に加え、「プラチナくるみん」の認定を取得しました。今後は、従業員が仕事と家庭だけでなく社会とのつながりを積極的に持つことによって、従業員個人の中での経験やスキルの多様性を増し、仕事におけるイノベーション創出につなげられるよう、従業員が自身の時間の使い方を柔軟にできるような仕組みも作っていく予定です。

 

<障がい者雇用>

 当社グループでは、全員がいきいきと働き続けるために必要な研修の実施や、一人ひとりの声を聴くための個別面談を通じて、環境改善、就労支援をしています。2018年2月には、障がい者の雇用促進と活躍機会の創出を目的にワコールアイネクスト㈱を設立し、2018年12月に障害者雇用促進法に定める特例子会社の認定を受けました。

 ワコールアイネクスト㈱では、業務範囲を限定せず、一人が複数の業務を担当する「マルチタスク」や、業務を分業して複数で請け負う「ワークシェア」など、個々人の能力開発を促す柔軟な働き方を採用し、一人ひとりがやりがいを持ち、成長を実感できる職場の実現を目指しています。法定雇用率を守ることは企業として必要なことですが、数値としての目標ではなく、ワコールの掲げる相互信頼のもと、すべての人が活躍し、成長できる職場づくりにグループ全体で取り組むことで、多様性を活かす社会の実現に貢献していきます。

 

:障がい者雇用や再雇用制度等については、当社ホームページをご参照ください。

https://www.wacoalholdings.jp/sustainability/resource/diversity/

 

Ⅴ.Well-beingの実現

 中長期経営戦略フレーム「VISION 2030」で掲げる「高い感性と品質で、ひとりひとりのからだとこころに、美しさと豊かさを提供し、『世界のワコールグループ』として進化・成長する」ことを実現するには、重要なステークホルダーである従業員のやりがいを高め、組織全体の生産性を向上させることが不可欠です。

 ㈱ワコールでは、従業員一人ひとりの働きがいや幸福度の向上こそ、高い生産性を実現する原動力と捉え、従業員とのエンゲージメント向上の一環として、Well-beingの実現のための施策を実行していきます。

 

<多様な働き方の推進>
 ㈱ワコールは、リモートワークの部門特性に合わせた積極的な活用、フレックスタイム制勤務の促進、勤務地限定制度の運用などを組み合わせ、いかに労働生産性を高めることができるかといった意識と行動変容を求めた取り組みを推進しております。実績・成果を重視する組織改革を進める一方で、多様な意見、価値観を認め合いビジネスパートナーとして個々を尊重する組織風土づくりに注力しております。新型コロナウイルスの感染予防対策として一気に普及したリモートワークですが、5類移行後も「成果・パフォーマンスを最大化するためのワークスタイル」として部門特性に応じた活用を継続します。また2023年4月からはスーパーフレックスタイム制をスタートさせるなど、引き続き働き方改革を進めていきます。

 

<健康経営>

 ㈱ワコールでは「社員の健康は、持続的成長のための重要な資産」と位置づけ、会社・健康保険組合・労働組合が三位一体となって、健康経営を戦略的に推進しています。「VISION 2030」では、「継続的な従業員の健康増進と健康意識の向上」をマテリアリティ(重要課題)の一つとして掲げています。健康経営の推進に向けて、新たに策定した「ワコールGENKI計画2025」では、従業員の心身の健康状態を高めるとともに、それらの成果を「生産性の向上」や「従業員エンゲージメントの向上」につなげていくことを目標としています。「生活習慣病対策」「がん対策」「メンタルヘルス対策」などこれまでの健康維持増進に向けた施策を継続しつつ、従業員が自発的に健康改善に取り組む環境をさらに整備することで、個々の健康に対する行動変容を促していきます。そのほか、女性特有の健康課題に対する取り組みも強化します。なお、㈱ワコールホールディングスは2017年から7年連続で「健康経営優良法人(ホワイト500)」に選定されています。

 

:ワコールGENKI計画2025に関しては、下記ホームページをご覧ください。

https://www.wacoalholdings.jp/sustainability/resource/wellbeing/

 

③リスク管理

 人的資本に関するリスクは、サステナビリティ戦略ならびに経営全般のリスクに含めて管理しています。詳しくは、「(1)サステナビリティ戦略 ③リスク管理」をご覧ください。

 

④指標と目標

経営戦略に基づく

人的資本の課題

人的資本の最大化に向けた取り組み

指標と目標(KPI)

指標

目標

会社の成長を担う人材の獲得・育成・登用

Ⅰ.人材獲得

Ⅱ.成長支援(育成・リスキング・キャリア形成)

経験者採用の状況(総合職)

総合職採用数のうち、3~5割を経験者採用にする

人材育成・研修への投下費用

研修参加者数、学びへの時間投資(労働時間対比)

2024年3月期中に策定

社内公募、ジョブチャレンジによる人事異動者数、率

2024年3月期中に策定

主体的なキャリア形成の実現度

エンゲージメント調査のキャリア実現に関するポジティブ回答が60%以上

個の力を組織の成果に結びつけるためのマネジメント力の向上

Ⅲ.マネジメント力の強化

持続的成長につながるマネジメントの貢献

エンゲージメント調査の将来性、未来志向に関するポジティブ回答が60%以上

フィードバック文化の醸成

エンゲージメント調査の承認・称賛、正当な評価に関するポジティブ回答が60%以上

エンゲージメント・心理的安全性の高い組織風土の醸成

Ⅳ.DE&Iの推進

Ⅴ.Well-beingの実現

ワコールGENKI計画2025のKPI達成

https://www.wacoalholdings.jp/news/files/news211203.pdf

障がい者雇用

2024年度法定雇用率2.5%

 

 

 

3【事業等のリスク】

 当社のリスク管理基本規程において、「リスク」とは、「当社グループにおける事業目的の達成を阻害する要因すべて」と定義しております。これらのリスクを適切に認識し、発生の可能性や影響度の評価を行い、優先度を定め、リスクへの対処を決定したうえで、リスク顕在化の可能性をできるだけ低減するための活動を行っております。同時に、その活動をモニタリングすることにより、継続的に活動内容の改善に努めております。併せて、リスクが顕在化した場合には、発生する障害・事故へ迅速な対応を行い、人びとや社会をはじめとするステークホルダーへの影響を最小限に留めるべく、リスク管理を推進しております。

(1)リスク管理体制

 当社グループのリスク管理体制は、“リスク管理統括責任者(代表取締役社長執行役員)”、“企業倫理・リスク管理委員会の委員長(代表取締役副社長執行役員)”を基軸として、下図のとおり、“企業倫理・リスク管理委員会(委員長が指名する委員による構成)”、また、企業倫理・リスク管理委員会の下部組織として、全社横断的な重要課題について活動方針策定やモニタリングを行う“リスク主管部署”及び“リスク対応部会(企業倫理・リスク管理委員会が決定/設置)”、さらに、企業倫理・リスク管理委員会が定めるリスク管理(抽出、評価、対応、モニタリング)を行う“リスク管理組織”及び“リスク管理責任者”によって構成されております。

 “企業倫理・リスク管理委員会”では、それぞれの“リスク管理組織”から抽出されたリスクについて、発生の可能性と影響度の観点から評価を実施し、当社グループの経営に重大な影響が想定されると評価したリスク項目を、毎年、取締役会に上程し「グループ重要リスク」としての決定を踏まえております。その後、「グループ重要リスク」の項目ごとに、“リスク主管部署”、あるいは“リスク対応部会”を通してリスクを軽減化する対応策への取り組みを進め、併せて、“企業倫理・リスク管理委員会”を定期的(四半期ごと)及び必要に応じて臨時に開催し「リスク管理体制」が有効に機能しているかどうかのモニタリングを行っております。

 

0102010_001.png

 

0102010_002.png

 

(2)事業等のリスク

 有価証券報告書に記載した事業の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に、重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクとその対策は後述のとおりであります。

 なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 “企業倫理・リスク管理委員会”が当社グループの経営に重大な影響が想定されると評価・選定したリスク項目を、取締役会で討議し「グループ重要リスク」を定めております。なお、★印は「経営環境・事業戦略」に関するリスク、■印は「事業運営上」のリスクであります。

 

0102010_003.png

 

(2)-1 経営環境・事業戦略に関するリスク

市場の構造変化

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:大

● リスクの内容

百貨店・量販店をはじめとする大規模小売店や商業施設の減少は、百貨店・量販店の売上シェアが高い当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。また、消費者接点(店舗)の減少はブランド認知率の低下、顧客の購入意欲の低下に波及するなど、この市場構造の変化は、既存業態の再編、営業政策の変更等をもたらし、グループ業績に影響を及ぼす可能性があります。

● 対応策

小売市場の構造変化(オンラインモールやフリマアプリの市場拡大)が進んでおり、旧来の百貨店、量販店及び専門店といった卸売店舗の売上シェアは漸減していくと予測しています。

国内ではブランドや流通チャンネル業態を横断したエリア販売・マーケティング体制へ移行を進め、顧客データの一元管理を実現すると同時に、いろいろな流通チャネル業態を活用いただくことによって、それぞれのお客さまの求めに応じたLTV(ライフタイムバリュー)としての顧客体験価値を高めるCX戦略を推進しています。今後も、実店舗でのパーソナルサービスの強化と、WEB販売でのストレスフリーなパーソナル情報の連携の強化に、バランスよく取り組んでいきます。

また、海外では、オフラインとオンラインを融合した独自のサービスの展開によって、引き続き、個々の国や地域でブランド認知度を向上させる取り組みに注力する一方、競合他社には真似できないフィッティングにおける顧客体験の向上を目指しています。当社グループのグローバル展開におけるミレニアル世代の獲得、EC事業での成長機会創出・競争力強化をねらいに買収した米国のIntimates Online, Inc.をはじめとして、各々の国・地域でDXを加速させ、お客さまのLTVの向上を実現し2030年度にはEC売上比率を50%超に導くよう進めています。

 

事業構造の改革(人件費率、過剰在庫、直営店・WEB販売等)

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:大

● リスクの内容

卸売中心の事業構造の変革途上において、人件費比率が高止まりする、また、SKUの増大や総在庫総販売総生産管理の失敗による在庫の増大が、物流コストの増加や値引き評価替えを誘発するなど、収益業績に悪影響を与える可能性があります。一方、直営店やWEB販売での成長戦略を、エリア販売力の強化と併せて、迅速かつ効果的に進められないでいると流通チャネル構造の変化に抗えず、業績が低迷する可能性があります。

● 対応策

急速に進む市場の構造変化に中長期の経営戦略を重ねて、適正な人員体制を実現するための要員計画・組織改革を推進しています。当連結会計年度においては、㈱ワコールでフレックス定年制度の特別運用を実施し、人員及び人員構成の早期適正化、国内事業の収益力向上と事業構造改革のスピードアップ、また、従業員の今後のキャリア形成の支援を進めました。引き続き、従業員一人ひとりの会社への貢献度が見える化できる成果評価の制度整備を行い、自分たちが会社の未来を創っていることが実感できる組織風土づくりに取り組んでいきます。

他方、従前のブランド戦略は流通チャネル業態の特性に沿って、細やかな対応を進めてきた結果、近年、約60ものブランド(サブブランド含む)を展開するまでに至りました。現在、お客さまの購買行動(カスタマージャーニー)はオンライン・オフラインを問わないシームレスなものに変化し、加えてグローバルSPA型のブランドとの競争が激しさを増しています。ブランド編成を大胆に見直し、9つの基幹ブランドに集約すると同時に、その下に30程度の構成ブランドを配置する「基幹ブランド戦略」を定めました。ブランドや商品に重複がないかなど、顧客視点で全体最適に向けた整理に取り組んでいます。顧客中心の価値創造プロセスを構築し、顧客視点で発想し「必要とされる」・「期待を超える」商品とサービスが提供できるよう、加えて、基幹ブランド戦略のベースとなるファンづくりにつながるよう、成長戦略を描き、投資領域を絞り込んでいきます。

 

 

 

調達価格の上昇

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:大

● リスクの内容

サプライチェーンの構造変化が進行し、原材料の値上がりや生産地の人件費高騰、輸送コストの上昇等により仕入価格が上昇した結果、業績に影響を及ぼす可能性があります。

● 対応策

材料の調達や製品の生産においては、適切に品質とコストの両面を照合しながら、アジアの国々や地域での調達・生産の比重を増やしています。また、近年では、社会・労働環境の変化に対応し、海外生産の軸足は中国からベトナムをはじめとするASEANに移行しています。併せて、製品の企画・設計段階から、可能な限り、材料品種を増やさない集約化の取り組み、材料調達先を国内から海外に求める取り組み、廃棄に至る製品・材料の最少化への取り組みなども進めています。

他方、当社グループでは、国内の縫製会社3社を2022年4月から1社に統合しました。国内の高い縫製技術を継承しつつ、外部環境の変化に応じた柔軟な生産管理体制を構築することにより、競争優位性強化と事業効率向上の両立を目指します。同時に、製品の研究・開発を担う部門と縫製現場の連携を、統合した縫製会社の下で一元化し、短納期・高難度・小ロット生産に対応できる生産体制を高め、事業効果の強化に取り組んでいます。

 

競争・競合環境の変化

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

国内外の市場において、競合会社、低価格品、また、異業種からの新規参入者などにより、市場競争が激化し、販売シェアが奪われ、長期的に業績が低下する可能性があります。

● 対応策

競争激化は、価格の下落、広告宣伝費の増加、売上高及び市場シェアの減少等につながり、当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼします。

㈱ワコールの収益力の改善と成長軌道への回帰を実現するためには、「顧客中心戦略」を軸に、競争優位性の強化に照準を絞った取り組みが欠かせないと考えています。デジタル技術を用いてパーソナライズ化された情報を顧客に提供し、流通チャネル業態やブランドを横断してお客さま一人ひとりとのつながりをさらに深める「CX戦略」を推進することによって、一層の「顧客起点」を実現いたします。また、パーソナライズアプリ「Wacoal Carnet」や、「Wacoal 3D smart & try」を通して、お客さまに、科学的に先進的に、そして、わかりやすく情報をお届けすることで、ブランドへの信頼感を高め、ロイヤルカスタマーとして「深く・広く・長く」関わっていただける絆づくりに努めています。

さらに、米国・欧州・中国の主要3法人では、グループ独自の特徴あるブランド展開・商品戦略を高めることによって、他社との差別化を実現すべく事業への成長投資を継続しています。併せて、新興国においては先駆的な利点を獲得すべく、インド市場での出店加速と積極的な広告宣伝投資を進めています。

 

消費者の価値観変化

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

ブランド戦略、商品、サービスが消費者の価値観変化に合わずに、顧客を獲得できず、もしくは顧客を失って経営が悪化する可能性があります。また、ブランドマネジメント、マーケティングミックスの失敗により、若年層顧客の囲い込みが適わず、一方で既存顧客の離反が進み、ブランド価値を毀損する可能性があります。

● 対応策

顧客にとっての価値を創造する活動すべてを「マーケティング」と位置づけ、一連の顧客体験を描き、顧客に選ばれるための必然を創造する取り組みを高めています。商品を購入いただくといった旧来型の志向から脱却し、オンラインとオフラインのすべての顧客との接点において、顧客情報が連携され、ブランドとのつながりが生まれる仕組みを築き、お客さまの一連の行動フローに対して価値を提供し、長い関係づくり、生涯顧客づくりに変えていく取り組みをスタートしました。ブランドマネジメントの面では9つの基幹ブランドへの整理・集約、これと連動した、ブランドコミュニケーション、マーケティングコストの集中と選択を実施することで、お客さまに向けたメッセージの質と量、双方の拡充を進めています。併せて、サステナビリティ活動への取り組みを強化し、社会をはじめステークホルダーからのレピュテーション向上と確立にも力を入れています。

 

 

新しい市場・顧客の開拓

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

日本の人口減少や少子高齢化による国内市場の縮小に向けて、当社グループは、海外市場の開拓や新業態・新分野への進出等、新規市場の開拓に取り組んでいますが、一方、多様化する消費者の価値観に応えきれず、計画した成果が出せないとグループ業績に影響を与える可能性があります。

● 対応策

国内では、当社ブランドとの接点が少ない潜在顧客に対し、購入意欲を喚起できる商品・マーケティング施策が打ち出せず、新規の顧客獲得に苦慮しています。一連の顧客体験や購買行動(カスタマージャーニー)を見極め、顧客に選ばれる必然の創出について、改めて見直す取り組みを進めています。他方、既存の愛用者に向けたリテンションマーケティング強化の取り組みは着実に成果に結びついており、ロイヤルカスタマーとして、これまで以上に太い絆を築くことができています。ロイヤルカスタマーに対するワードローブの品揃えを拡充するなど、当社グループの提供価値として実現できるLTVの最大化に向けて、より一層、優先的に力を注いでいきます。

一方、米国では、引き続き、デジタルマーケティングへの投資を積極的に実施することで、EC事業主体の成長を目指しています。自社EC事業強化の一環として導入したデジタルフィッティングアプリ「Wacoal-mybraFit」の利便性を向上することなどによって、現状は46%程度のEC売上比率を長期的には70%程度まで高めたいと取り組んでいます。加えて、物流インフラなど今後のEC成長を支える体制についても強化を行っています。中国では、感染症の影響からの回復を加速すべく、商品開発とWEB販売の組織体制強化を図りました。百貨店において20%程度のシェアを持つものの、下着市場全体では1%未満に留まっているため、中間層が購買の中心であるEC市場において、オフラインとオンラインの連携やCRM戦略の強化に取り組みながら、新規顧客の獲得と既存顧客のロイヤルカスタマー化を進めていきます。これらのほか、消費者に中間所得者層が多いにも関わらず、当社グループの事業規模がまだ小さいドイツやインドなどは、今後の拡大余地が大きい市場と捉えて戦略的な投資を進めています。

 

人材の確保

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:中

● リスクの内容

特に、ものづくり(企画力・技術力)、IT・デジタル、販売員、海外経営において人材の確保、育成ができないと、今後の成長や競合会社に対する優位性を作り出せず、グループの業績が低迷する可能性があります。また、販売員、退職後再雇用者の効率的配置ができないと、人件費効率の低下やモチベーションの低下が起こり業績の低迷を及ぼす可能性があります。

● 対応策

当社グループではジョブ型採用をはじめ、新しい採用手段の導入による人材確保に併せて、集団型講義やオンラインでの専門知識研修の実施やOJT、海外研修制度、他社と合同で実施する異業種クロスラーニングの開催などといった、実地研修機会の充実によって人材の育成を行っています。また、キャリア採用の比重を拡大するほか、リファラル採用にも注力し多様な人材の確保による活性化も進めています。

一方、市場の構造変化を受けて、販売員の評価については、接客人数や顧客視点での満足度(LTV=生涯顧客価値)といった成果へ見直しを進めています。また、退職後再雇用者は、再契約に際して責任と役割を高める職群を増やし、適材適所の異動を進めると同時に、目標管理評価を運用した成果配分給の採用によってモチベーション向上を図っています。

 

 

(2)-2 事業運営上のリスク

情報システム可用性障害の発生

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

システム開発のミスや遅延、また、重要なシステムに障害が発生することで、事業継続が困難になってしまうと、得意先・顧客はじめ、すべてのステークホルダーからの信頼を失う可能性があります。外部からの悪意ある攻撃、あるいは天災被害等により、基幹システムやWEB販売サイト等の稼働が不可能となった場合、ファイルサーバや従業員のPCから機密情報が流出した場合、事業への悪影響が出る可能性があります。

● 対応策

当社では「情報セキュリティ基本方針」、「情報セキュリティ関連組織と責任に関する規程」を定め、すべての従業員に対して情報保護の必要性と責任についての理解促進を図っています。“企業倫理・リスク管理委員会”の傘下に「情報セキュリティ部会」を設置し、現状の管理体制の把握と改善、また、顧客情報や重要技術情報にかかる不正なアクセスによるデータの破壊や漏えい、ウイルスやランサムウェアによる事業運営そのものの阻害を狙ったサイバー攻撃などについて、情報の収集、現状の調査、分析等を実施しています。同時に、当社グループの活動方針や具体的対策の立案、関連規程の制定・改廃、戦略的な投資案件の討議を行い、情報セキュリティリスクの低減に努めています。具体的には、不慮のシステム障害・誤作動に備えて、システムやデバイスをリアルタイムで監視するセキュリティツールの導入と運用を開始する一方、重要なシステムは適切なハードウェアやネットワーク構成、クラウド化の選択ができているか、また、IT資産の適切なメンテナンスが実施されているかなど、適宜モニタリングを行っています。さらに、国内連結子会社を対象に、定期的な標的型メール訓練の実施や、昨今報道されているような情報事故事例などを用いた注意喚起を行うなど、従業員の意識向上と仕組みの構築による両面からリスクの軽減を行っています。

 

情報管理の不備

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

情報管理の不備により、機密情報や個人情報の漏えいや紛失が発生すると、活動上、不利益を被るばかりか、社会的信用の失墜、事業運営の停止といった重大な損失影響が出る可能性があります。

● 対応策

当社では「情報分類規程」、「秘密情報取扱規程」、「個人情報保護規程」を定め、取り扱うすべての情報を、機密性、一貫性及び可用性の観点から適切に分類するとともに、保護・漏えい防止を図っています。また、重要情報の保護・管理の徹底をねらいに、当社グループの重要情報一覧表を整備し、経営、事業・販売戦略、製品開発、自社ノウハウ、個人情報、情報システム等の区分から、具体的なインサイダー情報事例を挙げて対策に取り組んでいます。

とりわけ、当社グループは事業活動上、多数の顧客に関わる個人情報を有しています。将来を見据え、㈱ワコールでは「CX戦略」を成長の柱と位置付け、収集した個人情報を含めたデジタルデータを基盤としたビジネスモデルの再構築を進めています。また、海外では顧客の個人情報を直接取得するEC事業を強化し、成長の柱とする計画を進めています。国内における改正個人情報保護法の施行対応に止まることなく、個人情報保護は当社グループ事業活動上の重要性が増しています。

“企業倫理・リスク管理委員会”の傘下に設置した「情報セキュリティ部会」では個人情報の保護・管理の強化、関連法規制への対応、従業員への教育等を含め、個人情報を外部の脅威から守るために、国内外の関係会社を対象に管理状況の調査と対策指導・助言等を進めています。

 

 

 

新しい疫病の蔓延

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

新疫病の蔓延による、政府・地方自治体からの外出自粛要請や店舗休業要請等を受けて、売上が低下しグループ業績に大きな影響を与える可能性があります。また、事業所内で感染者が拡大することで、従業員の出勤停止や事業所閉鎖により事業運営に支障をきたす可能性があります。

● 対応策

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、顧客・取引先及び当社従業員の安全確保を第一に考え、いかに合理的に事業活動を継続すべきか、“企業倫理・リスク管理委員会”の下に「新型コロナウイルス感染症対策本部」(本部長:代表取締役副社長執行役員)を設置し、国内外の感染状況を注視しながら対策を講じました。具体的には、感染状況に応じて、店頭販売員の勤務やサービスの方法、店舗の営業体制を決定するほか、内勤者には国や地域状況にあわせた勤務体制(リモート会議や在宅勤務の推進、出張・会議等の制限や緩和など)を臨機応変に示してきました。こうした対応を踏まえて、新しい疫病の蔓延に備えた指針、行動計画の見直しを進めております。

また、感染症と共生する個人消費行動の変化を見通し、通販サイトの利便性向上や感染の予防をしながら行動範囲を広げるワードローブの提案など、お客さまが求めるサービスの強化や新たな商品の開発を行い、競争優位の確保に努めます。

生活必需品を扱う企業として衛生的で快適な生活を守り、お客さまに安心を提供し続ける責任を果たします。

 

債券相場・金利の変動

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

保有する上場株式や債券等の市場価値が下落し、減損が発生する可能性があります。他方、年金資産の評価減・積立不足は追加拠出や引当が必要となりグループ業績に影響を与える可能性があります。

● 対応策

当社及び当社の特定完全子会社の㈱ワコールが保有している株式の状況は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (5)株式の保有状況」を参照ください。

当連結会計年度を初年度とする中期経営計画では、2025年3月期末までに保有する政策保有株式を150億円以上縮減する方針を示しています。当連結会計年度は、取締役会にて、個別の銘柄ごとに保有によって実現している収益が当社資本コストを上回っているか、当社の企業価値向上につながっているかを検証した結果、保有意義が希薄化した7銘柄・約40億円の処分・縮減を進めました。

他方、退職給付費用及び債務は、年金資産の期待運用利回りや将来の退職給付債務算出に用いる年金数理上の仮定に基づき算出していますが、有価証券の相場並びに金利環境の変化等により、実際の結果が仮定と異なる場合、または仮定に変化があった場合には、退職給付費用及び債務が増加するリスクがあります。当社は国内社債の利回りに基づいて割引率を設定しています。割引率については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 21.従業員給付」を参照ください。

企業年金のアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、財務・人事・経理等の部門長らで構成する年金委員会を設置し、四半期単位で資産運用方針や政策的資産構成割合等を検討すると同時に、外部の運用コンサルティング会社を起用し専門能力・知見を補完しています。

 

自然災害・事故等の発生

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

地震などの自然災害や火災・爆発等が発生し事業所・生産拠点が被害を受ける、あるいは、従業員が被災する可能性があります。また、交通網の遮断や電力供給の停止、通信回線の不通等、大型小売店や直営店舗、通販サイトや物流網の被災により事業活動に支障が出る可能性があります。

● 対応策

首都直下型地震をはじめとする大規模事故の緊急事態に備え、“企業倫理・リスク管理委員会”の傘下に設置した「BCP・災害対策部会」では、主要な事業拠点が被災した際のBCP策定を順次整備するなど、予防・減災、応急・初動、復旧・復興の観点で事業継続マネジメントに取り組んでいます。

具体的には建物の耐震化、データ関連サーバのクラウド化、災害発生時の従業員安否確認システム、モバイルワークなどといった環境整備に加え、社会的責任を踏まえて、緊急時においてもサービスや製品の安定供給ができるよう、販売事業所の業務バックアップ体制の確立や生産拠点の分散化配置によって、リスクの低減を図っています。また、当連結会計年度においては、首都直下型地震による被災を想定したBCPが合理的に機能するかの検証訓練を行いました。

 

 

 

企業倫理・コンプライアンスの姿勢

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:中

● リスクの内容

第三者から、サプライチェーンにおける人権、労働、環境問題等を指摘・公表され、事業活動に影響を与える、企業価値を毀損する可能性があります。また、企業倫理・コンプライアンスに反する行為が増加する、あるいは、ソーシャルメディアやブログ等のWEBサイト上を含めた広告表現や発言に問題が発生することによって、社会的な信頼を失い、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

● 対応策

当社グループを取り巻く国内外の法令や規制等への違反、社会的要請に反する行為等があった場合は、処罰や社会的な信用の低下などにより、経済的・社会的な影響を受けるリスクがあります。「企業倫理・ワコールの行動指針」を定め、従業員に頒布し周知徹底を図るだけでなく、“企業倫理・リスク管理委員会”の下に設置した「コンプライアンス部会」の活動を通じて、従業員への啓発活動、内部通報制度、外部専門機関による法令ヘルスチェックなどの施策を拡充し、法令順守の強化に努めています。

また、当社グループの事業領域において特に注力すべき点として、サプライチェーンでの労務・人権問題が挙げられます。過去には人権NPOから連結子会社の発注先である海外縫製工場における労務・人権問題について指摘を受けたことや、国内において二次製造委託先の外国人技能実習生に対する超過勤務手当の未払いが発覚したことがありました。2018年4月に立ち上げた「CSR調達部会」を、現在は“サステナビリティ委員会”の傘下に移管し、人権の尊重、環境・社会との調和、法令の順守、労働慣行、事業慣行の観点などから、製造委託先等の工場ごとに自己評価と現地監査を行い、是正・改善計画の策定とモニタリングを行う取り組みを高めています。併せて、CSR調達活動の対象先を、製造委託先を超えて漸次拡大を図るとともに、仕入先一覧を開示しています。

 

知的財産権の侵害・被侵害

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:中

● リスクの内容

知的財産権を侵害されたり侵害したりすることで、訴訟や経済的損失が起きる可能性があります。

また、近年、インターネット上で当社ブランドを詐称した「なりすまし広告・偽サイトへの誘導」が拡がっています。注意喚起や排除措置といった適切な対策を怠れば、消費者や市場からの信頼失墜を招きかねず、戦略的な知的財産権の保護や活用ができないでいると、事業に影響を及ぼす可能性があります。

● 対応策

当社グループは知的財産権があらゆる事業活動に関わり、競争優位性を確保する重要な資産であると認識しています。

ブランドや、独自の技術、デザイン、サービス等を、自社の競争力の源泉として知的財産権で保護・活用できるよう、一方で他社の知的財産権を尊重し侵害しないよう、従業員に対しセミナーによる教育や業界知財動向の共有を行い、正しい理解を促しています。また、外部専門家との連携を強化するなど、知的財産担当部門の知見を高めDXやCX戦略、新規事業における知的財産権の保護、活用を進めています。

また、国内外における模倣商品の出現や、他社による商標、特許等の無断使用といった知的財産権の侵害には、侵害者に対して権利主張を行い、厳格に対応を行うこととしております。最近では、EC事業のボーダーレス化に伴ったブランド価値の毀損、とりわけ、SNSを中心とした当社ブランドを騙る「なりすまし」の広告・販売の出現については、消費者への注意喚起の実施、販路の追跡と監視、排除措置の実施等に力を注ぐとともに、日本国内に留まらない消費者保護、ブランド保護対策に努めています。

 

 

 

デジタルマーケティングの加速による表現訴求、品質表示・取扱表示等の記載

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:中

● リスクの内容

主流になりつつあるデジタルマーケティングにおいて、従業員参加型を含むSNS上の発信内容、サステナビリティを巡る国際基準に逆らう概念での訴求表現によって、ネガティブキャンペーンや発信者への誹謗中傷をはじめとする社会問題を招き、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。他方、品質表示等の法令違反や機能性表示における不適切な表現は社会的な信用を損なう可能性があります。また、商品の回収・表示変更のコスト発生、販売中止によって損失影響が出る可能性があります。

● 対応策

消費者が適正に商品を選択し使用するための品質表示については、商品そのものに付帯させる法定表示に始まり、店頭やメディアでの広告・宣伝での訴求、販促表現、知的財産保護表示など多岐にわたっており、リスクが顕在化しやすい事案だと認識しています。また、インフルエンサーや従業員参加型の積極的なデジタルマーケティング活動を通した、当社の発信や参加者の言動に対する社会的な批判が、昨今においては、その内容の真偽に関わらず拡散されるリスクも認識しています。

“企業倫理・リスク管理委員会”傘下の「品質保証審議会」、「品質管理委員会」の活動を通して、表示内容を決定する部門でのダブルチェックを前提にした表示確認体制の整備、表示決定のプロセスにおける可能な限りのシステム化、表示ミス発生時の迅速な対応、問題発生後の再発防止のための徹底的な原因究明と対策の実施といった、一連のサイクルをルール化し運用しています。また、品質表示に関わる社内啓発活動と担当者教育を、定期的に実施しています。

併せて、国内外の関係会社ごとの事業環境に照らしたSNS運用規程を定めて周知徹底を行うとともに、マーケティングやコミュニケーション部門の従業員を対象に、訴求表現内容の事前確認・適否判断を行うための教育を推進しています。

このほか、独禁法、景表法、薬機法などと絡めたガイドライン各種の制定と改訂、e-ラーニングによる従業員を対象にした教育の実施などによって、リスクの軽減を図っています。また、機能・効能表現においては、商品化計画部門と研究部門、品質保証部門間の連携フローと併せて表記ルールの再整備を行い、外部の機関を交えたエビデンスデータの確認体制を整えています。

 

設計・製造上の品質保証

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:中

● リスクの内容

不良品を販売することや商品が人体へ危害を及ぼすこと等により、商品回収等のコストが発生する、当社が高品質の商品を提供するというレピュテーションが損なわれ社会的信用を失うといった、業績への悪影響を及ぼす可能性があります。

● 対応策

高品質な商品をグローバルに提供できることが、当社グループの強みの一つです。“企業倫理・リスク管理委員会”の下に「品質保証審議会」を設置し、安全性ガイドラインを整備すると同時に、製品企画・設計・開発時点での安全性確認ルールの順守、製造時の検査の徹底、問題発生時の原因追及と再発防止策の策定に取り組んでいます。併せて、こうした活動・情報内容については、グループの国内外関係会社へ水平展開・共有化を図ることによって、品質意識の高揚、全体での管理体制の底上げを行っています。また、「品質保証審議会」の傘下では、商品化計画を担う部門ごとのメンバー選出による「品質管理委員会」を運営し、個別課題への対策フォローアップ、品質管理全般に対する社内教育を実施しています。

他方、生産拠点の現場では、定めた品質管理・検査の徹底のみならず、製品受入ロックシステム(材料基準達成製品のみの受け入れ)の運用による基準未達品の排除、検査人員の技量の標準化、品質優秀表彰制度による従業員のモチベーションアップに取り組んでいます。

 

新興国の社会情勢変動

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:中

● リスクの内容

新興国に生産拠点を構える当社グループは、政治的不安定状態、法改正や制度変更、ストライキの発生、人材の確保難などによって材料調達や生産が滞り、業績に影響を与える可能性があります。

● 対応策

各国・地域の法律・規制の動向には常に十分な注意を払い、現地情報の収集・分析に努めています。現地の“リスク管理責任者”と連携し、地域の実情を把握し、必要に応じ外部の弁護士、コンサルタントなど、専門機関の協力を得て対応を行うよう整備と運用を図っています。軍事政権による掌握が続くミャンマーでは法律・規制の動向に加え、人権課題への対応についても注視しています。地政学的なリスクも見据え、適切な生産拠点の分散を行いリスクの軽減化に努めています。

 

 

税務の管理

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:中

● リスクの内容

税制改正や移転価格の調査等による多額の課税がなされた場合には、風評被害の他、当社グループの財政状況及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

● 対応策

繰延税金資産については、現行の会計基準に従い、将来の課税所得を合理的に見積もったうえで計上しています。将来の課税所得見積額の変更や税制改正に伴う税率の変更等により、繰延税金資産が減少し、当社グループの業績及び財政状況に悪影響を及ぼすリスクがあります。これを踏まえて、当社では、適宜、経営環境の変化等に照らし、将来の課税所得の見積もりに関する見直しを行い、回収可能性を合理的に判断しています。

2021年1月には、事業を展開する国・地域の法令、国際税務関連法規を順守し、透明性の高い税務管理を行い、ステークホルダーからの信頼を得ることをねらいに「税務行動指針」を策定し開示しました。この指針では、国内外の連結子会社を対象に、税務の最新情報入手や研修による啓発活動を含めたグループ税務体制の構築をはじめ、不確実な税務ポジションへの対応、優遇税制の適用、グループ会社間取引、租税回避行為の禁止、税務に関するディスクロージャー等のガイドラインを示しています。加えて、当連結会計年度より、国内連結子会社を対象にした定期的な税務研修会を運営しています。当該研修会では、インボイス制度など、時事の税制改正に適切な対応を進める確認を行う一方、「税務行動指針」の周知・徹底を行っています。また、同指針に記載したガイドラインの運用状況については、IFRIC23の指針に基づいた対応状況と併せて、国内外の連結子会社から、事業年度末に報告書を受けることによってモニタリングを行っています。このほか、BEPSをはじめ国際税務に関する動向を把握し、適宜、海外連結子会社と最新情報を共有するなど、当社グループにおける税務体制の整備に努めています。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。

 また、当社グループは当連結会計年度から従来の米国会計基準に替えてIFRSを適用しており、前連結会計年度の数値もIFRSに組み替えて比較分析を行っております。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

(1)経営成績

(単位:百万円)

 

2022年3月期

実績

2023年3月期

実績

前期比

 

増減額

増減率

売上収益

172,072

188,592

+16,520

+9.6%

 

売上原価

76,248

82,189

+5,941

+7.8%

 

売上総利益

95,824

106,403

+10,579

+11.0%

 

販売費及び一般管理費

95,330

102,301

+6,971

+7.3%

 

その他の収益

3,749

5,254

+1,505

+40.1%

 

その他の費用

952

12,846

+11,894

営業利益(△損失)

3,291

△3,490

△6,781

 

金融収益

1,930

1,517

△413

△21.4%

 

金融費用

232

795

+563

+242.7%

 

持分法による投資損益

△906

2,069

+2,975

税引前利益(△損失)

4,083

△699

△4,782

親会社の所有者に帰属する当期利益(△損失)

1,732

△1,776

△3,508

 

 当連結会計年度(2022年4月1日~2023年3月31日)における当社グループの経営環境は、主要国において主力商品であるインナーウェアの販売が苦戦したことから、厳しい結果となりました。国内は、経済活動に対する制限の緩和が進み、個人消費の回復の兆しが見られたものの、当社店舗への来店客数が伸び悩んだことに加え、物価上昇を受けた買い控えの影響もあり、当初の想定を下回る水準で推移しました。米国は、個人消費の減速や取引先の仕入抑制を受けて低調に推移したほか、中国も新型コロナウイルス感染症(以下、感染症)に対する厳格な行動制限が長期化したことから苦戦しました。一方、欧州は主力ブランドが好調に推移したことにより成長基調を維持したほか、アジア各国についても行動制限の緩和を受けて回復しました。

 このような状況のもと、当社グループは、2022年6月に中長期経営戦略フレーム「VISION 2030」、及び当連結会計年度を初年度とする3か年の中期経営計画を公表し、持続的な成長と企業価値の向上に取り組んでおります。国内事業においては、引き続き、「顧客データの活用」、「オンラインとオフラインの融合」等による顧客体験価値の向上に向けた独自のCX戦略を推進するとともに、収益力の向上に向けた取り組みを強化し、「レジリエントな企業体質への転換」を進めました。海外事業においては、既存進出エリアでの堅実な売上拡大に加え、EC事業の拡大など、さらなる成長に向けた取り組みを進めました。また、財務戦略については、収益力の向上と資本効率の改善に向けた諸施策を進め、ROEの向上に取り組みました。

 これらの結果、当連結会計年度の連結売上収益は1,885億92百万円(前期比9.6%増)となりました。営業損益は、旧大阪事業所の固定資産売却益(30億24百万円)などがあった一方で、ワコールインターナショナル(米国)に係るのれんや無形資産などの減損損失(100億33百万円)やワコールでのフレックス定年制度の特別運用の実施に伴う費用計上(7億45百万円)などにより、34億90百万円の営業損失(前期は32億91百万円の営業利益)となりました。税引前損益は、持分法による投資利益の計上がありましたが営業損失が響き、6億99百万円の損失(前期は40億83百万円の税引前利益)、親会社の所有者に帰属する当期損益は17億76百万円の損失(前期は17億32百万円の当期利益)となりました。

 なお、当該期間の為替換算レートは、1米ドル=135.47円(前期112.38円)、1英ポンド=163.15円(同153.56円)、1中国元=19.75円(同17.51円)であります。

 報告セグメントの経営成績を示すと次のとおりであります。

(単位:百万円)

 

 

2022年3月期

2023年3月期

前期比

 

 

実績

構成比

実績

構成比

増減額

増減率

売上収益合計

172,072

100.0%

188,592

100.0%

+16,520

+9.6%

 

ワコール事業(国内)

88,128

51.2%

96,746

51.3%

+8,618

+9.8%

 

ワコール事業(海外)

59,214

34.4%

66,732

35.4%

+7,518

+12.7%

 

ピーチ・ジョン事業

12,200

7.1%

11,918

6.3%

△282

△2.3%

 

その他

12,530

7.3%

13,196

7.0%

+666

+5.3%

 

(単位:百万円)

 

 

2022年3月期

2023年3月期

前期比

 

 

実績

売上比

実績

売上比

増減額

増減率

営業利益(△損失)

3,291

1.9%

△3,490

△6,781

 

ワコール事業(国内)

604

0.7%

2,862

3.0%

+2,258

+373.8%

 

ワコール事業(海外)

2,055

3.5%

△7,397

△9,452

 

ピーチ・ジョン事業

1,650

13.5%

915

7.7%

△735

△44.5%

 

その他

△1,018

130

1.0%

+1,148

 

① ワコール事業(国内)

 ワコール事業(国内)については、中期経営計画のコア戦略で掲げる「レジリエントな企業体質への転換」の実現に向けて、顧客体験価値の向上に向けた独自の戦略を推進するとともに、収益力の改善に向けて事業構造改革の取り組みを進めました。

 当期については経済活動に対する制限の緩和が進んだものの、話題性のある商材の不足などを背景に当社店舗への来店客数が伸び悩んだことに加え、物価上昇を受けた買い控えや、取引先の仕入抑制などの影響もあり、当初の想定を大幅に下回る結果となりました。再成長に向けて注力するCX戦略については、顧客データの統合を通じたリテンションマーケティングの強化などが奏功し、会員顧客による購買は計画通りに推移しましたが、新規を含む非会員顧客による購買については、来店や顧客獲得に繋がる効果的なプロモーション施策を打ち出せなかったことから低調な推移となりました。

 これらの結果、当該セグメントの売上収益は967億46百万円(前期比9.8%増)となりました。営業利益は、急激な円安に伴う原価の高騰や店頭売上の苦戦に伴う返品の増加などの影響を受けたものの、増収効果に加え、コストコントロールの徹底や固定資産(旧大阪事業所など)の売却益の寄与などもあり、28億62百万円(前期比373.8%増)となりました。

 なお、当期から、ワコールにおける百貨店等との消化取引については、売上を店頭価格ベースに変更しておりますが、遡及修正はしておりません。当該変更により、売上収益と販売費及び一般管理費がそれぞれ同額(54億15百万円)増加しているため、営業利益に影響はありません。

 

② ワコール事業(海外)

 ワコール事業(海外)については、中期経営計画のコア戦略で掲げる「グローバル成長の加速」の実現に向けて、デジタルマーケティングの強化による新規顧客の獲得と、データ活用やCRMの強化による既存顧客のロイヤルカスタマー化に取り組みました。

 ワコールヨーロッパは、ボディポジティブのトレンドの高まりを背景に「Elomi」ブランドが伸長したことに加え、スイムウェアも好調な推移となりました。これを受けて百貨店や専門店、ECの売上が堅調に推移した結果、成長トレンドを維持しました。ワコールインターナショナル(米国)は、急激な物価上昇などに伴う個人消費の減速の影響を受け、低調に推移しました。米国ワコールは、店頭売上の低迷や取引先の仕入抑制、主力商品の生産遅延などの影響による実店舗チャネルの苦戦が響き、現地通貨ベースで減収となりました。「LIVELY」ブランドを展開するIntimates Online, Inc.は、足元のマーケティング環境の悪化を受け、2022年8月に経営体制を刷新して収益性の改善に取り組みましたが、広告宣伝費を大幅に抑制したことで訪問客数が落ち込み、大幅な減収となりました。中国ワコールは、ゼロコロナ政策下での厳格な行動制限による商業施設の休業や来店客数の減少に加え、ECの苦戦が響き、大幅な減収となりました。

 これらの結果に加えて、主要通貨が円安に推移したことから、邦貨換算後の当該セグメントの売上収益は667億32百万円(前期比12.7%増)となりました。営業損益は、売上低迷による中国ワコールの営業損失やワコールインターナショナル(米国)における減損損失の計上が響き、73億97百万円の営業損失(前期は20億55百万円の営業利益)となりました。

 

③ ピーチ・ジョン事業

 ピーチ・ジョン事業については、消費者のニーズを捉える商品開発を進めるとともに、効果的なマーケティング戦略の展開によって高い利益水準の獲得を目指し取り組みました。

 当期においては、前期の感染症影響の裏返しに加え、主力の「ナイスバディシリーズ」の店頭売上が好調に推移したことなどから直営店の売上は前期を上回りました。一方、自社ECの売上は、新たなミューズや新商品を活用したコンテンツマーケティング施策を実施して訪問者の増加を図りましたが、効果を得ることができず、前期の水準を下回りました。また、2022年12月をもって中国子会社の事業活動を終了しております。

 これらの結果、当該セグメントの売上収益は119億18百万円(前期比2.3%減)となりました。営業利益は、広告宣伝費の抑制に努めたものの、減収影響に加え、円安に伴う原価上昇、中国子会社の事業活動の終了に伴う損失などが響き、9億15百万円(前期比44.5%減)となりました。

 

④ その他

 その他については、中期経営計画のコア戦略で掲げる「レジリエントな企業体質への転換」に向けて、不採算事業の対処や固定費の見直し等、確実に利益を出し続けることができる体制の構築を進めました。

 当期については、ルシアンは自社ブランドの売上が回復したものの、大手衣料品チェーン向けのプライベートブランド商品の販売が不調に終わった結果、減収となりました。七彩及びAiにつきましては、行動制限の緩和に伴う需要の回復から増収となりました。

 これらの結果、当該セグメントの売上収益は131億96百万円(前期比5.3%増)、営業利益は1億30百万円(前期は10億18百万円の営業損失)となりました。各社の売上水準は感染症拡大前を下回る水準に留まっておりますが、オペレーション見直しの進展による収益構造の改善に加え、ルシアン子会社の工場用地の退去に伴う補償金の計上などから、黒字を確保しました。

 

(参考)主要子会社の売上収益・営業利益(△損失)

(単位:百万円)

売上収益

2022年3月期

2023年3月期

前期比

実績

構成比

実績

構成比

増減額

増減率

 

ワコール

81,184

47.2%

90,948

48.2%

+9,764

+12.0%

 

ワコールインターナショナル(米国)

25,282

14.7%

28,014

14.9%

+2,732

+10.8%

 

ワコールヨーロッパ

16,305

9.5%

19,184

10.2%

+2,879

+17.7%

 

中国ワコール

11,734

6.8%

10,365

5.5%

△1,369

△11.7%

 

ピーチ・ジョン

12,200

7.1%

11,918

6.3%

△282

△2.3%

 

ルシアン

3,475

2.0%

3,189

1.7%

△286

△8.2%

 

七彩

6,042

3.5%

6,196

3.3%

+154

+2.5%

※外部売上収益のみを記載しております。

(単位:百万円)

営業利益(△損失)

2022年3月期

2023年3月期

前期比

実績

売上比

実績

売上比

増減額

増減率

 

ワコール

1,733

2.1%

2,753

3.0%

+1,020

+58.9%

 

ワコールインターナショナル(米国)

490

1.9%

△9,448

△9,938

 

ワコールヨーロッパ

1,945

11.9%

1,680

8.8%

△265

△13.6%

 

中国ワコール

△166

△698

△532

 

ピーチ・ジョン

1,650

13.5%

915

7.7%

△735

△44.5%

 

ルシアン

△593

111

3.5%

+704

 

七彩

△145

9

0.1%

+154

 

(2)財政状態

 当連結会計年度末における総資産は、自己株式の取得や借入金の返済による現金及び現金同等物の減少に加え、のれんや無形資産の減損などにより、前連結会計年度末に比して138億81百万円減少し、2,852億96百万円となりました。

 負債は、借入金やリース負債が減少したことなどにより、前連結会計年度末に比して61億32百万円減少し、721億77百万円となりました。

 親会社の所有者に帰属する持分は、利益剰余金の減少や自己株式の増加などにより、前連結会計年度末に比して81億56百万円減少し、2,098億34百万円となりました。

 以上の結果により、当連結会計年度末における親会社所有者帰属持分比率は、前連結会計年度末に比して0.6ポイント増加し、73.5%となりました。

 

(3)キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比し107億4百万円減少し、267億81百万円となりました。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、当期損失17億34百万円に減損損失などによる調整を加えた金額に対して、資産及び負債の増減などによる調整を行った結果、73億34百万円の収入(前期に比し92億88百万円の収入減)となりました。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、投資有価証券及び有形固定資産の売却などにより、39億2百万円の収入(前期は30億42百万円の支出)となりました。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、自己株式の取得や借入金の返済、配当金の支払などにより、225億41百万円の支出(前期に比して184億66百万円の支出減)となりました。

 

(4)生産、受注及び販売の実績

①生産実績

 当連結会計年度の生産実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりであります。なお、ピーチ・ジョン事業については、すべて販売会社のため該当事項はありません。また、その他のセグメントについては、生産実績を定義することが困難であるため「生産実績」は記載しておりません。

報告セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

ワコール事業(国内)

40,284

116.8

ワコール事業(海外)

17,510

120.0

合計

57,794

117.8

(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。

2.生産実績の金額は製造原価によっております。

 

②受注実績

 その他のうち㈱七彩の店舗内装工事部門については受注生産形態をとっております。

 当連結会計年度におけるその他の受注実績を示すと、次のとおりであります。

報告セグメントの名称

受注高(百万円)

前期比(%)

受注残高(百万円)

前期比(%)

その他

4,134

106.4

188

151.6

(注) セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

③販売実績

 当連結会計年度の販売実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりであります。

報告セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

ワコール事業(国内)

96,746

109.8

ワコール事業(海外)

66,732

112.7

ピーチ・ジョン事業

11,918

97.7

その他

13,196

105.3

合計

188,592

109.6

(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。

2.総販売実績に対し10%以上に該当する販売先はありません。

 

(5)資本の財源及び資金の流動性

 当社グループの資金の流動性は、主に営業活動による純現金収入によります。営業活動による純現金収入により、外部からの多額の借入や、その他の資金調達手段に頼らずに、大部分の運転資金の確保や設備投資、配当金の支払が可能となっております。ただし、金融機関に借入枠は設けており、2023年3月31日現在の借入枠の合計は551億22百万円、借入枠を設けている借入金の残高は80億84百万円となっており、主な残高の内訳としては当社が50億円、WACOAL INTERNATIONAL CORP.が28億4百万円、㈱トリーカが2億80百万円となっております。

 これらの借入枠の期限は、ほとんどが自動的に更新されるものであり、現状更新を妨げるような事象は発生していないと考えております。仮にいずれかの子会社において借入が不可能になったとしても、グループの各社から資金を供給することが可能であると考えております。また、資金需要について大きな季節変動はありません。

 また、子会社からの親会社への配当に係る規制は特に無いと考えております。

 なお、感染症による影響の度合い、期間が不透明であったため、当社は2020年4月以降に金融機関に追加の借入枠を設け、手元流動資金を確保するため最大400億円の借入を行いましたが、当期までに350億円を返済しております。今後も目的や収益性を厳格に見積もることで、資金の流動性を確保していきます。

①設備投資

  「第3 設備の状況 1 設備投資等の概要」に記載しております。

 

②キャッシュ・フロー

「(3)キャッシュ・フローの状況」に記載しております。

 

(6)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成されております。これらの連結財務諸表の作成にあたっては、当社グループは重要な見積りや仮定を行う必要があります。

 なお、重要な会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針 4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載しております。

 

5【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

  当社グループでは、人体と衣服の調和を実現し、よりよい製品づくりを支えるため、人間科学研究開発センターを中心として研究開発に取り組んでおります。

  当社グループは、1964年以降日本人女性の体型を正確に把握するため、女性の体型調査を継続して実施してきました。シルエット分析システムの開発や三次元計測システムの導入、更により高度な人間の感覚計測にも取り組み、人間の形態・生理・心理の三側面からの研究開発を行っております。研究成果として、1995年~1998年に通産省(現経済産業省)プロジェクトへの参加を通じて、感覚生理研究を強化充実し、「加圧生理」、「温熱生理」、「皮膚生理」面での基礎研究をもとにして、着心地が良いだけでなく生理的にも効果のある新製品の開発を行ってきました。2005年には、日常歩行をエクササイズ歩行に変え、健康で美しいからだづくりをサポートする画期的なスタイルサイエンス商品を開発し、世の中に新しい商品市場を開拓しました。また、2010年には同一人物の20代から50代に至る体型変化を分析し、加齢によるからだの変化(エイジング)の原則を発表し、エイジングに対応した新製品開発を強化するとともに、加齢による体型変化の小さい人の生活習慣をヒントにした新機能製品の開発、2020年には「重力によるバストの動きと皮膚研究」の研究報告をもとに「重力からバストを守る」ことの大切さの研究発表カンファレンスを実施し、同研究をもとにした「重力に負けないブラ」や「重力に負けないボトム」等の新機能製品の開発、2021年には大学や他社との共創型「からだ文化研究プロジェクト」を発足させ、からだ文化市場の創造活動を開始、2022年3月には関係者を対象に「からだ文化シンポジウム」を東京青山スパイラルホールで開催。2022年6月には人間科学研究開発センターが監修開発したサイズ判定アルコリズムを搭載した3Dボディスキャナー Samrt&Try Pocketの運用を開始しました。

 当連結会計年度は、からだ文化市場の醸成のため、「からだ文化研究プロジェクト」を推進し、多くの研究及び情報発信を実施しました。

  これらの結果、当連結会計年度の研究開発費に598百万円計上しました。

 なお、当社グループの研究開発活動は、主にレディスインナーウェア等の基礎研究から商品開発に及ぶさまざまな研究を行っており、特定のセグメントに関連付けることが困難であるため、セグメントごとに記載しておりません。

  今後も、「ひとりひとりが自分らしく美しくいられるように」、“美”“快適”“健康”の3領域を基軸に、顧客満足及び企業価値の増大に貢献し得る研究開発の充実を図り、商品力の強化とお客様に納得と満足を感じていただける新製品や新サービスの開発に邁進する所存であります。